医療機関の開業は設備投資だけで1,500万〜1億円超になる場合もある。福祉医療機構(WAM)の医療貸付と日本政策金融公庫の創業融資を軸に地方銀行と協調融資を組む方法と、審査を通すための事業計画書のポイントを解説する。
要点
この記事で先に確認すること
- 内科・小児科系開業の資金目安
- 2,000万〜5,000万円
- 出典: 当サイト調査(開業支援実務より)
- WAM医療貸付(診療所)
- 建築資金は有床5億円・無床と歯科3億円以内、償還期間は耐火20年以内・その他15年以内。新設に伴う機械購入資金は新築資金を使う場合に限り2,500万円以内・5年以内(独立行政法人福祉医療機構)
- 出典: 福祉医療機構(WAM)「ご融資の種類(診療所)」(https://www.wam.go.jp/hp/guide-iryokashitsuke-kind_clinic-tabid-378/)
- 公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 限度額7,200万円・設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)
- 出典: 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html)
- 公庫が融資した開業後1年以内の企業の資金調達(全業種)
- 開業時の資金調達額は平均1,219万円で、うち自己資金が平均279万円(22.9%)、金融機関等からの借り入れが平均827万円(67.9%)。公庫国民生活事業が2024年4〜9月に融資した企業のうち融資時点で開業後1年以内の企業への調査で、診療所に限った数字ではない
- 出典: 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_251205_1.pdf)
SECTION 01
医療・クリニック融資に必要な資金規模と調達ルートの全体像
診療科目によって開業資金は大きく異なる。内科・小児科系クリニックは内装・医療機器・電子カルテを合わせて2,000万〜5,000万円が目安だ。歯科は1,500万〜4,000万円、眼科・整形外科は高額医療機器(レーザー・MRI)を含むと5,000万〜1億円を超える場合がある。
資金調達は日本政策金融公庫の創業融資を主軸に、建物の新築・購入などで条件に合えば福祉医療機構(WAM)の医療貸付を組み合わせ、不足分を地方銀行や都道府県の医療関連制度融資で補う協調融資が標準パターンだ。公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査(公庫が融資した開業後1年以内の企業が対象)では、開業時の資金調達額は平均1,219万円で、うち自己資金が平均279万円(22.9%)だった。これは診療所に限らない全業種の平均だ。
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金の案内に、自己資金の要件は書かれていない。
SECTION 02
WAMの医療貸付と公庫の創業融資を使い分けて長期・低利で調達する
医療機関向けの公的融資は2本柱で考える。1つ目は独立行政法人福祉医療機構(WAM)の「医療貸付」で、病院・診療所の新築・増改築などの建築資金(診療所は建物の購入・賃借に要する資金も対象)を「長期・固定・低利」で融資する専門制度だ。診療所の建築資金は限度額が有床5億円・無床と歯科3億円、償還期間は耐火建物20年以内・その他の構造15年以内で、病院の耐火建物は20年超30年以内も選べる。
WAMの金利は、返済期間が10年を超える場合は完全固定か10年経過ごとの見直しを選び、10年以内は完全固定だけになる。無床・歯科診療所の新設で新築資金を使えるのは、診療所不足地域での新設と、在宅療養支援(歯科)診療所・かかりつけ医機能を有する診療所の新設に限られる。診療所の新設に伴う機械購入資金は、新築資金を使う場合に限られ、2,500万円以内(購入価格の80%以内)・5年以内だ。
2つ目は日本政策金融公庫(国民生活事業)の「新規開業・スタートアップ支援資金」で、開業するクリニックの内装・医療機器・運転資金に幅広く使える。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)だ。
無床・歯科診療所の新設でWAMの新築資金を使えるのは診療所不足地域などの場合に限られ、新設に伴う機械購入資金もその新築資金を使う場合に限って2,500万円以内だ。そのため、内装・医療機器・運転資金は公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(限度額7,200万円)が主軸になる。
いずれも審査で重視されるのは診療収入シミュレーション・想定患者数の根拠・競合診療所との差別化だ。公庫の提出書類の案内では、これから事業を始める方は創業計画書を、設備資金を申し込む方は見積書を出すとしており、内装や医療機器の見積書がこれに当たる。このほかの書類を追加で求められる場合もあるため、申込前に窓口で確かめる。
開業3〜6ヶ月前に相談窓口を訪れることで計画段階から担当者と関係を構築でき、申込時のスムーズな審査につながる。
SECTION 03
地方銀行・信用金庫との協調融資で調達上限を広げる方法
公的融資の限度額を超える資金が必要な場合、地方銀行や信用金庫との協調融資が有効だ。地方銀行は診療所の建物・設備を担保に設備資金の不足分を補完する役割を担う。信用金庫は地域密着の特性から、開業予定地のエリアで患者需要があると判断すれば審査に積極的になりやすい。
複数金融機関から条件提示を受けた上で主取引銀行を1行に絞って長期関係を築くことが、開業後の追加融資・金利交渉で有利に働く。開業後も月次売上報告を継続することで、将来の分院展開時の資金調達を円滑に進められる。
SECTION 04
診療開始までの許認可・設備・入金時期を重ねる
クリニックの開業資金は、物件、内装、医療機器、電子カルテ、採用、広告、医薬品、許認可関連費用に分ける。工事と機器納入だけでなく、保健所などへの手続き、スタッフ研修、診療開始日も工程表へ入れる。診療開始後も保険診療の請求から入金まで時間があるため、家賃・給与・仕入を賄う運転資金を別に見積もる。
患者数と診療単価は診療科、立地、診療日数に応じて組み、立ち上がりが遅れた場合も資金が尽きないかを確かめる。設備のリースと購入は、保守、更新、解約を含む総費用で比較する。医療機器の納入遅延や採用未達に備え、開業日の変更が家賃・給与・返済開始へ与える影響も工程表で確かめる。
SOURCES
この記事で参照した根拠
- 01
内科・小児科系開業の資金目安
出典: 当サイト調査(開業支援実務より)
- 02
WAM医療貸付(診療所)
出典: 福祉医療機構(WAM)「ご融資の種類(診療所)」(https://www.wam.go.jp/hp/guide-iryokashitsuke-kind_clinic-tabid-378/)
- 03
公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
出典: 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html)
- 04
公庫が融資した開業後1年以内の企業の資金調達(全業種)
出典: 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_251205_1.pdf)
数値・制度は変更される場合があります。確認方法と訂正方針は 運営・編集方針をご覧ください。
FAQ
よくある質問
Q開業前(勤務医の段階)でも融資申込は可能ですか?▼
可能だ。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は新たに事業を始める方も対象で、これから事業を始める方は創業計画書を、設備資金を申し込む方は内装や医療機器の見積書を出す。公庫の創業向けのよくある質問では、自己資金は重要な要素のひとつだが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要だとしている。
勤務医としての経歴や診療の実績も、創業計画の根拠として書面にまとめておく。
Q電子カルテや医療機器はリースと融資のどちらが有利ですか?▼
リースは初期費用を抑えられる反面、月次コストが継続発生する。融資で購入する場合は設備が担保になる利点があり、長期保有なら総コストが低くなることが多い。資金繰り計画全体で比較することが重要だ。
Q医療法人格の取得前後で融資条件は変わりますか?▼
借り手と審査の資料が変わる。医療法人は都道府県知事の認可を受けて設立する法人で(医療法第44条)、設立の前は開設者の医師個人が借り手になる。設立の後は医療法人が借り手になり、決算を終えれば法人の決算書が審査の資料になる。
中小企業信用保険法は、医業を主たる事業とする法人で常時使用する従業員が300人以下のものを「中小企業者」に含めており、これに当たる医療法人は信用保証協会の保証も利用の対象になる。個人で借りている融資の扱いは、法人化の前に借入先へ相談する。
Q開業後に売上が想定を下回った場合の対処法は?▼
開業前の融資申込時に6ヶ月分の運転資金も一括調達しておくことが基本的なリスク対策だ。売上低迷が続く場合は、借入先の金融機関へ返済条件の変更(リスケジュール)を早めに相談する。セーフティネット保証は、取引先の倒産や災害、経済産業大臣が指定した業況の悪い業種などに当たることについて、市区町村長の認定を受けた中小企業者が使う保証だ。
売上が開業時の計画を下回ったこと自体は、認定の要件ではない。
Q分院・第二院の開設資金は本院の実績をもとに調達できますか?▼
本院の黒字決算が2期以上あれば、分院の設備資金を本院の財務実績をもとに審査してもらえる可能性が高い。本院が主取引銀行と良好な関係を維持していることが分院融資の重要な前提条件になる。
関連ページ
資金使途・業種・規模・地域から探す
関連する用語
この記事に出てくる用語を確認する
関連記事
次に確認したい記事
医療機器の設備資金調達:融資とリースの比較と高額機器の選択基準
CT・MRI・手術機器など高額医療機器の調達手段を融資とリースで比較。WAM医療貸付・銀行設備融資・リース契約の特徴を整理し、機器の耐用年数と陳腐化リスクから選択基準を解説する。
訪問看護ステーションの開業資金計画|令和8年度診療報酬改定で新設された包括型訪問看護療養費
令和8年度診療報酬改定で新設された包括型訪問看護療養費について、算定対象・届出・単価・実施体制を公式資料で確認し、訪問看護ステーションの開業資金計画に反映する手順を解説します。
歯科医院の開業・設備資金ガイド|設備投資と使える融資制度
歯科医院の開業・設備資金を解説。歯科ユニットや歯科用CTなど高額設備の調達、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金、リースとの使い分け、承継開業(M&A)の資金設計まで整理する。
整骨院・接骨院の開業資金ガイド|内装・機器と使える融資制度
整骨院・接骨院(柔道整復師)の開業資金を、施術ベッド・物理療法機器・内装・運転資金に分けて整理。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金や療養費の入金サイトに備える運転資金設計を解説します。