税金・社会保険料の滞納がある状態の資金調達ガイド|換価の猶予と融資
公開: 2026-06-08
税金や社会保険料を滞納している状態では、信用保証協会の保証も銀行融資も原則として受けにくい。打開策は「滞納していても借りる裏技」ではなく、国税の換価の猶予・納税の猶予や社会保険料の猶予で正常化し、完納の見通しを示してから融資に進む順序の徹底だ。
この記事のポイント
国税「換価の猶予」の申請要件
一時に納付すると事業継続・生活維持が困難なおそれ/納税に誠実な意思がある/猶予を受ける国税以外の滞納がない/納期限から6か月以内の申請/原則として猶予額に相当する担保提供
出典: 国税庁「G-9 換価の猶予の申請手続」(nta.go.jp/taxes/nozei/nofu/24200039.htm)
換価の猶予の猶予期間
1年の範囲内(最も早く完納できると認められる期間)。猶予期間内に完納できないやむを得ない理由があれば延長申請でき、既に猶予した期間と合わせて2年を超えない範囲で延長される
出典: 国税庁「G-10 換価の猶予期間の延長の申請手続」(nta.go.jp/taxes/nozei/nofu/24200040.htm)
換価の猶予が認められた場合の効果
差押財産の換価(売却)が猶予され、差押えにより事業継続・生活維持が困難になるおそれがある財産は差押えの猶予・解除がされる場合がある。猶予期間中の延滞税の一部が免除される
出典: 国税庁「G-9 換価の猶予の申請手続」/国税庁徴収課「国税の納税の猶予制度 FAQ(令和6年11月)」
社会保険料(厚生年金保険料等)の猶予の申請先と延滞金の扱い
管轄の年金事務所に申請する。換価の猶予は猶予期間中の延滞金の一部が免除され、納付の猶予は延滞金の全部または一部が免除される。いずれも財産の差押え・換価が猶予される
出典: 日本年金機構「厚生年金保険料等の猶予(換価の猶予・納付の猶予)」(nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/kankayuyo.html)
滞納がある状態での信用保証協会の利用
税金を滞納し完納の見通しが立っていない場合は原則利用不可。少額で原則1年以内に完納できると認められる、または税務署と1年以内の分割納付の合意がある場合に保証の可能性が出る
出典: 愛媛県信用保証協会「ご利用になれない方」(ehime-cgc.or.jp/info/cannotuse.html)/株式会社エクステンド「税金未納で信用保証協会保証付融資が借りられない」
なぜ滞納があると融資・保証が受けにくいのか:完納の見通しが前提になる構造
税金や社会保険料を滞納している状態では、銀行のプロパー融資はもちろん、公的機関である信用保証協会の保証付融資も原則として受けにくい。理由は単純で、融資審査では納税証明書(完納を示すもの)の提出を求められることが多く、滞納や差押えの記録があれば即座にマイナス評価になるからだ。信用保証協会についても、税金を滞納し完納の見通しが立っていない事業者は利用対象外とされているのが一般的だ。ただし「滞納がある=一律に門前払い」ではなく、滞納額が比較的少額で原則1年以内に完納できると認められる場合や、税務署と1年以内の分割納付の合意ができている場合には、保証の可能性が出てくる。つまり審査側が見ているのは滞納の有無そのものよりも「完納の見通しが客観的に示せるか」であり、そこを満たす手段が後述の猶予制度だ。滞納がある状態でまず融資を申し込むのではなく、滞納を正常化する順序を踏むことが資金調達への最短ルートになる。
差押えが実行されると融資実行自体が物理的に困難になる
滞納が進むと税務署や年金事務所による差押え(預金・売掛債権等の強制徴収)に至ることがある。差押えで銀行口座が凍結されると、たとえ融資が内定しても資金の受け渡しや返済引落しが機能せず、融資実行自体が物理的に困難になるケースがある。さらに差押えの記録は銀行内の与信管理情報に残り、解消後もしばらく審査でマイナスに働く。だからこそ、差押えに至る前、あるいは差押え後でも、猶予制度で差押えの猶予・解除を得て状態を正常化することが、その後の融資相談の前提になる。
国税の打開策:換価の猶予と納税の猶予で正常化する
国税(法人税・消費税・源泉所得税等)を滞納している場合の正攻法が、国税庁の「換価の猶予」と「納税の猶予」だ。換価の猶予は、一時に納付すると事業継続・生活維持が困難になるおそれがあり、納税に誠実な意思があるなどの要件を満たす場合に、納期限から6か月以内に税務署へ申請することで認められる。認められると差押財産の換価(売却)が猶予され、事業継続を困難にするおそれがある財産は差押えの猶予・解除がされる場合があり、猶予期間中の延滞税の一部も免除される。猶予期間は1年の範囲内で、完納できないやむを得ない理由があれば延長申請でき、既に猶予した期間と合わせて2年を超えない範囲で延長される。一方の納税の猶予は、災害・盗難・病気・事業の廃止や休止・事業の著しい損失といった特定の事由に該当する場合に適用される制度で、こちらは延滞税の軽減幅がより大きい。いずれも税務署との交渉で成立し金利相当の追加コストがほぼ発生しないため、銀行で滞納分の穴埋め資金を高金利で借りるより資金繰り上のメリットが大きい場合が多い。
国税の猶予制度と「滞納したまま融資」の比較
| 対応 | 差押え | コスト | 主な要件 |
|---|---|---|---|
| 国税「換価の猶予」 | 差押財産の換価が猶予・解除されうる | 猶予期間中の延滞税の一部免除 | 事業継続困難のおそれ・誠実な納税意思・納期限から6か月以内の申請・原則担保 |
| 国税「納税の猶予」 | 差押えの猶予・解除がされる場合がある | 延滞税の軽減幅が大きい | 災害・病気・事業の廃止/休止・著しい損失等の特定事由 |
| 滞納したまま融資を申込む | 差押えで口座凍結のリスク | 高金利・実行困難な場合あり | 完納の見通しが示せず原則審査否決 |
社会保険料の滞納も同じ:年金事務所の猶予制度を使う
見落とされがちだが、健康保険料・厚生年金保険料といった社会保険料の滞納も、融資・保証の審査で国税の滞納と同様にマイナスに評価される。社会保険料についても、国税と同じ枠組みの猶予制度が整備されている。一時に納付すると事業継続・生活維持が困難になるおそれがある場合などには、管轄の年金事務所へ「換価の猶予」を申請でき、認められると財産の差押え・換価が猶予され、猶予期間中の延滞金の一部が免除される。災害・病気・事業の廃止や休止・著しい損失などの事由に該当する場合は「納付の猶予」を申請でき、こちらは延滞金の全部または一部が免除される。申請には換価の猶予申請書のほか、財産収支状況書(猶予額が一定額を超える場合は財産目録・収支明細)や、担保提供がある場合の関係書類が必要になる。国税は税務署、社会保険料は年金事務所と窓口が分かれるため、両方に滞納がある場合はそれぞれに猶予を申請して同時並行で正常化を進めるのが実務だ。
滞納から融資にたどり着くまでの順序:猶予→分割合意→納税証明→融資相談
滞納がある状態で資金調達まで進む現実的な手順は、(1)まず税務署・年金事務所に自発的に相談し、換価の猶予や分割納付の合意を取り付けて差押えを回避・解除する、(2)合意した分割計画に沿って遅延なく納付実績を積む、(3)完納あるいは「1年以内に完納できる分割合意がある」という状態をつくる、(4)その状態を納税証明書や合意内容で示しながら信用保証協会・金融機関に融資相談する、という順序になる。信用保証協会の保証は、滞納額が少額で原則1年以内に完納できると認められる場合や、税務署との1年以内の分割納付合意がある場合に可能性が出てくるため、(1)〜(3)はそのまま保証の前提条件づくりにあたる。なお差押え後の解消や猶予合意ができても、与信情報に滞納記録が残っている間は、改めて数か月〜1年程度の正常な納税・納付実績を積んでから申し込む方が審査通過率は高くなる傾向がある。焦って滞納のまま申し込むより、正常化の手順を一段ずつ踏む方が結果的に早く調達にたどり着く。
猶予が認められない・滞納が重い場合は再生スキームも視野に
猶予制度はあくまで一時的に納付が困難な事業者向けの仕組みで、誠実な納税意思や完納の見通しが前提になる。慢性的に税・社会保険料の納付原資が確保できない、滞納額が事業規模に対して過大といった状態は、資金繰りの一時調整では解決しない構造的問題のサインだ。その場合は中小企業活性化協議会への相談や、税理士・社会保険労務士を交えた抜本的な資金繰り・収益改善の検討が必要になる。融資はあくまで正常化後の選択肢であり、滞納を新たな借入で塗り替える発想は避けたい。
よくある質問
Q税金を滞納している状態で銀行融資や信用保証協会の保証は受けられますか?▼
原則として受けにくいです。融資審査では納税証明書の提出を求められることが多く、滞納や差押えの記録はマイナス評価になります。信用保証協会も完納の見通しが立たない事業者は原則利用できません。まず換価の猶予や分割納付の合意で正常化し、完納の見通しを示してから融資相談に進む順序が現実的です。
Q換価の猶予とはどんな制度で、どんな要件がありますか?▼
一時に国税を納付すると事業継続や生活維持が困難になるおそれがある場合に、差押財産の換価(売却)が猶予される制度です。納税に誠実な意思がある、猶予を受ける国税以外の滞納がない、納期限から6か月以内に申請する、原則として猶予額に相当する担保を提供する、といった要件があります(国税庁 G-9)。
Q換価の猶予の猶予期間はどのくらいですか。延長はできますか?▼
猶予期間は1年の範囲内で、最も早く完納できると認められる期間に定められます。猶予期間内に完納できないやむを得ない理由がある場合は延長を申請でき、既に猶予した期間と合わせて2年を超えない範囲で延長されます(国税庁 G-10)。猶予期間中は延滞税の一部が免除されます。
Q社会保険料を滞納している場合はどこに相談すればよいですか?▼
健康保険料・厚生年金保険料の猶予は、管轄の年金事務所に申請します。一時に納付すると事業継続等が困難な場合は「換価の猶予」、災害・病気・事業の廃止や著しい損失等の場合は「納付の猶予」を申請でき、認められると差押え・換価が猶予され、猶予期間中の延滞金が免除されます(日本年金機構)。
Q滞納分を新しい融資で一括して払ってしまうことはできますか?▼
おすすめできません。そもそも滞納がある状態では融資審査が通りにくく、差押えで口座が凍結されると融資実行自体が困難になります。正攻法は換価の猶予・分割納付で状態を正常化することです。滞納を新たな借入で塗り替えると返済負担が重なり、資金繰りがさらに悪化するリスクがあります。
Q滞納を解消すればすぐに融資を受けられますか?▼
完納や分割合意で正常化しても、与信情報に滞納や差押えの記録が残っている間は審査でマイナスに働くことがあります。解消後に数か月〜1年程度の正常な納税・納付実績を積んでから申し込む方が、審査通過率が高くなる傾向があります。信用保証協会も1年以内に完納できる見通しが示せるかを重視します。
Q換価の猶予と納税の猶予はどう違いますか?▼
換価の猶予は、一時に納付すると事業継続等が困難なおそれがある場合に差押財産の換価を猶予する制度です。納税の猶予は、災害・盗難・病気・事業の廃止や休止・事業の著しい損失といった特定の事由に該当する場合に適用され、延滞税の軽減幅がより大きいのが特徴です。自社の状況がどちらに当てはまるか税務署に相談して判断します。
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