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減価償却の戦略的設計:銀行評価と税効果のバランスを取る方法

公開: 2026-06-05

減価償却は単なる経費計上ではなく、銀行評価と税負担を同時に動かすレバーだ。定率法は早期に費用が膨らみ節税が前倒しになる一方で当期利益と自己資本を圧縮する。融資を狙う期は償却前利益で見られる前提を踏まえ、税効果と財務見栄えのバランスで方法を選ぶ。

ポイント

この記事のポイント

償却資産の費用化の境目

取得価額10万円未満は全額経費・10万円以上20万円未満は一括償却資産(3年で均等償却)

出典: 国税庁 No.2100 減価償却のあらまし(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm)

中小企業者等の少額減価償却資産の特例

取得価額30万円未満を全額損金算入(年間合計300万円まで・従業員500人以下の青色申告法人・令和8年3月31日まで)

出典: 国税庁 No.5408(令和7年4月1日現在の法令・https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm)

中小企業投資促進税制

対象設備は取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除(税額控除は資本金3,000万円以下の法人)を選択適用。適用期限は令和9年3月31日まで

出典: 国税庁 No.5433(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5433.htm)

償却方法の選択が銀行評価の3指標をどう動かすか

減価償却費は損益計算書では費用だが、銀行評価では3つの指標に同時に効く。第1に当期利益(償却費が大きいほど利益は減る)、第2に自己資本(利益の蓄積が純資産を厚くするため償却前倒しは自己資本比率を下げる方向に働く)、第3にキャッシュフロー(減価償却費は現金支出を伴わないため、利益に償却費を足し戻した償却前利益が返済原資の目安になる)だ。定率法は初期に償却費が大きく後年に減る方式で、定額法は毎期一定額を計上する方式である。つまり同じ設備でも、定率法を選べば取得直後の数期は利益と自己資本が薄く見え、定額法なら平準化される。融資審査でどの指標を重く見られるかによって、最適な方法は変わる。

償却前利益で見られる場面と当期利益で見られる場面

銀行は返済能力を測るとき、利益に減価償却費を足し戻した償却前の利益(簡易キャッシュフロー)を返済原資として使うことが多い。この見方では償却費が大きくても返済原資は目減りしない。一方、内部格付けの定量評価では当期利益や自己資本比率そのものが点数化される。設備集約型で償却費が重い企業ほど、当期利益だけで判断されると不利に見えやすい。自社が「償却前で評価される借り方」をしているのか「当期利益・自己資本で格付けされる」のかを把握し、説明資料で償却前利益を前面に出すかどうかを決めるのが第一歩になる。償却の仕組みや格付けの詳細は /guide/bank-credit-rating も参照してほしい。

定率法と定額法でキャッシュフローの見え方が変わる

定率法は未償却残高に一定率を掛けるため初年度の償却費が最大になり、年々減少する。定額法は毎期一定だ。償却費は現金が出ていかない費用なので、償却費が大きい期ほど利益は小さくても手元に残る現金は相対的に多い。融資審査で償却前利益を返済原資として見るなら、定率法で利益が薄い期でも返済能力の説明は崩れない。ただし当期利益や配当余力を見せたい期、増資や株式評価が絡む局面では、定率法の利益圧縮が不利に働くこともある。法人の建物は定額法に限定されるなど資産区分ごとに選べる方法が決まっている点も前提として押さえる。

税効果を最大化しつつ財務の見栄えを保つ設計

減価償却の前倒しは課税所得を圧縮して当期の税負担を軽くするが、利益と自己資本も同時に薄くする。ここに税効果と銀行評価のトレードオフがある。中小企業には費用化を加速する公式の制度が複数あり、設備投資の期にこれらを使うか通常償却にとどめるかで、当期の税負担と財務の見え方が大きく変わる。融資を申し込む期の直前に大型設備を取得し、特別償却や少額資産特例で一気に費用化すると、節税効果は得られても当期利益と自己資本比率は下振れする。逆に税額控除を選べば費用化は通常償却のままで利益・自己資本を維持しつつ、納税額そのものを直接減らせる。融資のタイミングと税効果のどちらを優先するかで選ぶ制度が変わる。

少額資産・一括償却・特別償却の使い分け

取得価額10万円未満は取得時に全額経費にできる。10万円以上20万円未満は一括償却資産として3年で均等償却でき、償却資産税(固定資産税)の対象外になる利点がある。中小企業者等であれば30万円未満の資産を年間合計300万円まで全額損金算入できる特例も使える(従業員500人以下の青色申告法人・令和8年3月31日までの取得が対象、いずれも国税庁 No.5408 の現行要件)。これらは当期に費用を寄せるため節税には強いが、利益・自己資本を薄くする方向に働く。融資直前期は、節税優先か財務見栄え優先かを先に決めてから適用範囲を絞り込むのが安全だ。

特別償却と税額控除はどちらが融資に有利か

中小企業投資促進税制では、対象設備について取得価額の30%の特別償却か7%の税額控除を選べる(税額控除は資本金3,000万円以下の法人が対象、適用期限は令和9年3月31日まで・国税庁 No.5433)。特別償却は初年度に償却費を上乗せして課税所得を圧縮するが、その分だけ当期利益と自己資本が下がる。税額控除は償却額を増やさず納税額を直接減らすため、利益と自己資本を維持したまま手元資金を残せる。融資審査で当期利益や自己資本比率を重視されるなら税額控除のほうが財務の見栄えを保てる。設備資金の融資を検討するなら、制度の選択と申込時期をあわせて設計したい。設備資金の借り方は /guide/owner-compensation-tax-optimization で扱う役員報酬の調整とあわせて考えると、利益水準を狙った値にコントロールしやすい。

償却方法・税制の選択が銀行評価と税負担に与える効き方

選択肢当期利益・自己資本当期の税負担融資審査での向き
定額法(毎期一定)平準化され安定して見える平準的利益・自己資本を重視される期に有利
定率法(初期に大きい)取得直後の数期は薄く見える前倒しで軽くなる償却前利益で評価される借り方なら問題小
特別償却(30%上乗せ)初年度に大きく下がる初年度に大きく軽くなる当期利益重視の審査では不利になりやすい
税額控除(7%)通常償却のまま維持納税額を直接削減利益・自己資本を保てるため見栄えに有利
FAQ

よくある質問

Q定率法と定額法、融資を狙うならどちらが有利ですか?
A

一概には言えません。銀行が利益に減価償却費を足し戻した償却前利益を返済原資として見るなら、定率法で利益が薄い期でも返済能力の説明は崩れません。一方、内部格付けで当期利益や自己資本比率を点数化される局面では、償却費の小さい定額法のほうが財務を厚く見せられます。自社がどの指標で評価されるかを先に把握して選びましょう。

Q減価償却費が大きいと融資審査で不利になりますか?
A

当期利益だけで見られると不利に見えますが、減価償却費は現金が出ていかない費用です。銀行は返済能力を測るとき利益に償却費を足し戻した償却前利益を使うことが多く、この見方なら償却費が大きくても返済原資は目減りしません。説明資料で償却前利益を前面に出すことが有効です。

Q少額減価償却資産の特例は今いくらまで使えますか?
A

中小企業者等は取得価額30万円未満の資産を年間合計300万円まで全額損金算入できます。従業員500人以下の青色申告法人が対象で、令和8年3月31日までの取得が対象です(国税庁 No.5408・令和7年4月1日現在の法令)。最新の金額・期限は適用前に必ず国税庁の公式情報で確認してください。

Q特別償却と税額控除はどちらを選ぶべきですか?
A

中小企業投資促進税制では対象設備について30%の特別償却か7%の税額控除を選べます。節税を前倒ししたいなら特別償却、利益・自己資本を維持したまま納税額を減らしたいなら税額控除が向きます。融資審査で当期利益や自己資本比率を重視されるなら、財務の見栄えを保てる税額控除が有利になりやすいです。

Q融資の直前に大型設備を買って一気に償却して大丈夫ですか?
A

節税効果は得られますが、特別償却や少額資産特例で一気に費用化すると当期利益と自己資本比率が下振れし、審査で財務が弱く見えるリスクがあります。融資のタイミングと税効果のどちらを優先するかを先に決め、優先順位に合わせて償却方法と制度の適用範囲を絞り込むのが安全です。

Q減価償却の方法は資産ごとに自由に選べますか?
A

資産区分ごとに選べる方法が決まっています。たとえば法人が取得した建物は定額法に限定されるなど、自由に定率法を選べない資産があります。法定耐用年数も財務省令の別表で資産ごとに定められています。償却方法を融資戦略に組み込む前に、対象資産でどの方法が使えるかを国税庁の公式情報で確認してください。

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