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役員借入金を「資本性」として扱わせる:要件と実務手順

公開: 2026-05-22

役員借入金は決算書の負債の部に並ぶが、銀行の自己査定では一定の要件を満たせば「資本性借入金」として自己資本相当に再評価される。金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)が根拠となる中小・零細企業向けの取扱いと、金融庁「資本性借入金関係FAQ」が定める3要件(償還条件・金利設定・劣後性)を整理し、確認文書の準備から格付け改善までの実務手順をまとめる。

ポイント

この記事のポイント

資本性借入金の3要件(金融庁FAQ)

償還条件(期間5年超・期限一括または同等の長期据置)・金利設定(業績連動型)・劣後性(法的破綻時に他債権に劣後)の3点を満たすこと

出典: 金融庁「資本性借入金関係FAQ」(fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200527/04.pdf)

中小・零細企業の役員借入金の取扱い

貸借対照表の負債の部に役員借入金がある場合、役員が返済要求をしないことが確認できる時は自己資本相当額として取り扱う

出典: 金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」(fsa.go.jp/manual/manualj/manual_yokin/bessatu/y1-01.pdf)

役員貸付金がある場合の控除

役員貸付金は回収可能性を検討し、回収不能額がある場合は自己資本相当額から減額する

出典: 金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」(fsa.go.jp/manual/manualj/manual_yokin/bessatu/y1-01.pdf)

判断要素(資産査定上の総合勘案)

債務者の実態的な財務内容・貸出条件およびその履行状況・今後の業績改善見込・代表者個人の返済余力等を総合的に勘案して判断

出典: 金融庁「資本性借入金関係FAQ」(fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200527/04.pdf)

実質純資産プラス化の事例計算

簿価純資産△500万円・固定化した役員借入金1,000万円のケースでは、実質純資産+500万円と評価されうる

出典: 和田経営相談事務所「代表者勘定(役員借入金・役員貸付金)の銀行評価を徹底解説」(wada-keiei.com/archives/10923)

監督指針上の位置づけ

主要行等向け・中小・地域金融機関向けの監督指針に資本性借入金の取扱いが明記され、債務者区分判定時に資本に準じて勘案する枠組みが整備されている

出典: 金融庁「資本性借入金の取扱いの明確化に係る『主要行等向けの総合的な監督指針』等の一部改正について」(fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200527.html)

資本性借入金とは:負債なのに自己資本として勘案される仕組み

資本性借入金とは、金融機関が自己査定(債務者区分判定)を行う際に「負債」ではなく「自己資本」とみなして取り扱える借入金のことを指す。金融庁の「資本性借入金関係FAQ」では、十分な資本的性質が認められる借入金として①償還条件(期間5年超かつ期限一括償還または同等に評価できる長期据置)②金利設定(業績連動型で、債務者が厳しい状況にある期間は金利負担が抑えられる仕組み)③劣後性(法的破綻時に他の債権に劣後する仕組み)の3要件が示されている。これら3要件をフル充足する典型例が日本政策金融公庫の挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)だが、中小・零細企業の役員借入金については別途「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」で、役員が返済を要求しないことが確認できる場合は自己資本相当額として扱うという緩和的な運用が示されている。検査マニュアル自体は2019年12月18日に廃止されたが、別冊で示された中小企業の実態に即した判断枠組みは実務に定着しており、金融庁の監督指針にも資本性借入金の取扱いが明記された形で引き継がれている。役員借入金を抱えた中小企業にとっては、この枠組みを使うことで簿価上の債務超過・自己資本不足を実質的に補正でき、債務者区分の格上げや格付け改善の余地が広がる。

資本性借入金の3要件(金融庁FAQ)と中小企業の役員借入金特例

要件原則(FAQ)中小企業役員借入金の運用
償還条件期間5年超・期限一括または同等の長期据置長期間返済されていない(固定化)事実で代替評価
金利設定業績連動型(厳しい時期に金利負担抑制)形式要件は緩和。実質的に返済原資を圧迫しないこと
劣後性法的破綻時に他債権に劣後する特約返済劣後特約の覚書または役員の返済意思放棄の確認
判断主体金融機関が総合勘案金融機関が中小企業の実態に応じて個別判断

銀行に「資本性」と判定してもらうための実務要件と確認文書

中小企業の役員借入金を銀行が資本性借入金として扱うかどうかは、最終的には個別金融機関の判断だが、判定を後押しするためには「役員が返済を要求しない」事実を客観的に説明できる材料が必要だ。実務的には①金銭消費貸借契約書(または覚書)に返済期日を「会社の業績回復時または役員からの請求時まで」とし、当面の返済を求めない旨を明記する②可能であれば返済劣後特約(他の債権者に対する弁済を優先する条項)を入れる③役員の個人資産状況を示す確定申告書(直近2〜3期)を添付し、当該借入金を回収しなくても役員の生活が維持できることを示す④株主総会議事録または取締役会議事録で「当該役員借入金は経営改善・財務基盤強化のため返済を留保する」旨を決議し記録する⑤メインバンク担当者に決算説明時に「役員借入金は実質的に資本性負債として位置づけている」旨を口頭でも伝え稟議書に反映してもらう、という5つの準備が定石になる。長期固定化(複数年返済が動いていない)の事実は強い客観証拠になるため、過去の試算表・元帳の推移を整理しておくと説得力が増す。判断要素として金融庁FAQが挙げる「貸出条件およびその履行状況」「今後の業績改善見込」「代表者個人の返済余力」を意識的にカバーする資料設計が効く。

返済劣後特約の組成と覚書の書き方

本格的な資本性借入金として扱わせるためには、既存の役員借入金に対して返済劣後特約を付した覚書を作成するのが最も確実な方法だ。覚書には①対象となる借入金の金額・契約日を特定する条項②会社が他の債権者(金融機関・取引先等)に対して負う一切の債務を完済するまで本借入金の返済を行わない旨の劣後条項③償還期間を5年超に設定し期中は無利息または業績連動利息とする条項④法的倒産手続開始時の劣後性を明記する条項、を入れる。会社側は取締役会議事録(または株主総会議事録)で当該覚書の締結を決議し、税務上の問題が生じないよう税理士と事前確認する。覚書だけでなく決算書注記にも「役員借入金については返済劣後特約付き」と明記することで、銀行担当者が稟議書に資本性負債としての評価を書き込みやすくなる。

債務者区分・格付け改善効果:実質純資産プラス化の具体メカニズム

役員借入金を資本性借入金として扱わせる最大の効用は「実質純資産のプラス化による債務者区分の格上げ」だ。例えば簿価ベースで純資産△500万円の債務超過企業が、長期固定化した役員借入金1,000万円を持っていた場合、銀行が当該役員借入金を自己資本相当として加味すると実質純資産は+500万円となり、債務超過状態が解消される。これは形式要件「破綻懸念先または実質破綻先(債務超過が長期化)」から「要注意先」または「正常先」への格上げを実現するレバーになり、新規プロパー融資の追加余地・既存融資の継続可能性・金利水準の改善に直結する。同時に債務償還年数(要償還債務÷キャッシュフロー)の計算でも、役員借入金を要償還債務から除外できれば年数が短縮し、自己資本比率の改善とあわせてダブルで定量指標が改善する。なお銀行ごとに資本性借入金として認める判断基準には幅があり、メガバンクはスコアリングモデルの硬直性から認めにくい傾向が、地方銀行・信用金庫・日本政策金融公庫は中小企業の実態に即した柔軟な判断を行う傾向がある。役員借入金の規模が大きく債務超過解消の効果が明確な場合は、まず日本政策金融公庫・地元信用金庫・メイン地方銀行で資本性扱いの稟議を取り、それをアンカーに他行への展開を図る順序が現実的だ。

役員借入金の資本性扱いによる格付け改善の典型パターン

ケース簿価純資産役員借入金実質純資産想定される債務者区分の動き
Aケース(軽度債務超過)△200万円500万円(固定化)+300万円破綻懸念先 → 要注意先候補
Bケース(中度債務超過)△500万円1,000万円(固定化)+500万円実質破綻先回避 → 要注意先
Cケース(黒字+役員借入大)+800万円2,000万円(固定化)+2,800万円要注意先 → 正常先候補
Dケース(役員借入+役員貸付)△100万円・貸付300万円役員借入800万円+400万円(貸付控除後)債務超過解消・要注意先候補

注意点:役員貸付金との相殺・税務リスク・銀行ごとの判断差

役員借入金の資本性扱いを狙う際は、3つの落とし穴に注意する必要がある。第1に「役員貸付金との相殺評価」で、貸借対照表に役員貸付金がある場合、銀行は回収不能額を自己資本相当額から減額するため、役員借入金1,000万円があっても役員貸付金500万円が回収不能と判定されれば実質加算は500万円にとどまる。役員貸付金は銀行が嫌う代表的勘定でもあるため、資本性扱いを狙うなら役員貸付金の解消を先行させるのが定石だ。第2に「DES(デット・エクイティ・スワップ)との税務リスク比較」で、役員借入金を資本金に振り替えるDESは法人税法上「債務消滅益」が課税される可能性があり、繰越欠損金の範囲内で実施するか専門家相談が必須となる。資本性借入金として扱わせる方法は債務をBSに残したまま実質評価を変える手法のため税務リスクは原則発生せず、DESより導入ハードルが低い。第3に「銀行ごとの判断差」で、メガバンクはスコアリングモデルの制約から役員借入金を額面通り負債計上することが多く、地方銀行・信用金庫は中小企業の実態を加味した柔軟な判断を行いやすい。複数行取引がある場合、まず柔軟な判断を行う銀行で資本性扱いの稟議を通し、その判断を根拠資料として他行への説明に展開する順序が現実的だ。最終的に金融機関の判断は個別事案ごとに行われるため、覚書・議事録・確定申告書を整えた上で、担当者と早い段階から相談しコミュニケーションを取ることが資本性扱い実現の最短ルートになる。

FAQ

よくある質問

Q役員借入金を資本性借入金として扱わせるための法的根拠は何ですか?
A

金融庁「資本性借入金関係FAQ」が3要件(償還条件・金利設定・劣後性)を示し、中小・零細企業向けには「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」で「役員が返済要求をしない場合は自己資本相当額として取り扱う」という運用が示されている。検査マニュアル本体は2019年12月に廃止されたが、別冊の判断枠組みは監督指針に引き継がれ実務に定着している。

Q返済劣後特約は必ず必要ですか?
A

原則的な資本性借入金として扱わせるには返済劣後特約が必要だが、中小企業の役員借入金については長期間固定化していて役員が返済を要求しない事実が客観的に確認できれば、銀行は実態を加味して自己資本相当と扱う運用を行う。本格的な資本性評価を狙う場合は返済劣後特約付き覚書を作成し決算書注記にも明記するのが確実だ。

Qどのような確認文書を準備すべきですか?
A

金銭消費貸借契約書(返済期日を業績回復時または役員請求時まで)・返済劣後特約付き覚書・役員の確定申告書(直近2〜3期)・取締役会または株主総会議事録(返済留保の決議)・過去試算表(長期固定化の証憑)の5点が標準セットだ。これらを束ねた決算説明資料として担当者に直接渡すと稟議書への反映が進みやすい。

Q役員貸付金がある場合の評価はどうなりますか?
A

金融検査マニュアル別冊の取扱いでは、役員貸付金がある場合は回収可能性を検討し回収不能額を自己資本相当額から減額する運用となる。役員借入金で実質純資産を増やしたい場合は、役員貸付金の解消(返済・債務免除益処理など)を先行するのが定石で、貸付金を残したままだと加算効果が相殺される。

Q債務超過企業でもどのくらい格付けが改善しますか?
A

改善幅は固定化した役員借入金の金額と簿価純資産の関係に依存する。簿価純資産△500万円・役員借入金1,000万円であれば実質純資産+500万円となり債務超過が解消され、債務者区分が「実質破綻先または破綻懸念先」から「要注意先」に格上げされる可能性がある。具体的な格上げ判断は個別の金融機関が総合判断する。

QDES(デット・エクイティ・スワップ)と比べてどちらが有利ですか?
A

資本性借入金として扱わせる方法は債務をBSに残したまま実質評価を変えるため税務リスクは原則発生しないが、DESは債務消滅益が法人税課税の対象となる可能性があり繰越欠損金の範囲内で実施する等の専門家相談が必須となる。導入ハードルとリスクの観点では資本性扱いの方が中小企業向きと言える。

Q銀行ごとに資本性扱いの判断に差はありますか?
A

差がある。都市銀行はスコアリングモデルの硬直性から役員借入金を額面通り負債計上する傾向が強く、地方銀行・信用金庫・日本政策金融公庫は中小企業の実態を加味した柔軟な判断を行いやすい。複数行取引がある場合、まず柔軟な判断を行う銀行で資本性扱いの稟議を通し他行に展開する順序が現実的だ。

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