日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」には自己資金の要件が設けられておらず、自己資金が少なくても申込み自体は可能。ただし実務上は自己資金があるほど審査で有利になるため、見せ金に頼らず、自己資金とみなされる範囲を正しく把握し、事業計画書で補う戦略が現実的だ。
この記事で先に確認すること
- 特定創業支援等事業の効果
- 産業競争力強化法に基づく市区町村の支援を受け証明書を取得すると、公庫の創業向け融資で貸付利率引下げや創業関連保証の前倒し利用の対象になる
- 出典: 中小企業庁・各市区町村 特定創業支援等事業(産業競争力強化法)
SECTION 01
自己資金要件の「撤廃」と実務のギャップ
2024年3月に日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は廃止され、現在の創業向け制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」に一本化された。旧制度には「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」という要件があったが、現行制度の公式な利用要件にはこの自己資金要件が記載されていない。つまり制度上は自己資金がほとんどない状態でも申込み自体は可能になった。
ただし注意したいのは、これは「審査で自己資金を見ない」という意味ではない点だ。自己資金は創業者の計画性・本気度・資金管理能力を測る材料として実務上も重視されており、ゼロまたは極端に少ない場合は審査で不利になりうる。要件が緩んだことと、審査で有利になることは別問題として捉える必要がある。
旧制度と現行制度の自己資金の扱い
| 項目 | 新創業融資制度(廃止) | 新規開業・スタートアップ支援資金 |
|---|---|---|
| 自己資金の最低額要件 | 創業資金総額の10分の1以上 | 公式要件に最低額の記載なし |
| 申込みの可否 | 要件を満たさないと不可 | 自己資金が少なくても申込みは可能 |
| 実務上の審査評価 | 自己資金が多いほど有利 | 同様に自己資金が多いほど有利 |
| 利用できる方 | 新規開業の方 | 新規開業または事業開始後おおむね7年以内の方 |
SECTION 02
見せ金は禁止:通帳履歴で計画性が見られる
自己資金が少ないからといって、申込み直前に親族などから一時的に資金を入金して見せかける「見せ金」は厳禁だ。公庫の担当者は申込時に通帳の入出金履歴を確認し、直前にまとまった金額が突然入金されている場合は見せ金の典型例として警戒する。見せ金と判断されればその時点で審査に大きく不利になる。
評価されるのは「いつ・どうやって貯めたか」を説明できる資金であり、毎月の給与から計画的に積み立ててきた預貯金は出所が明確なため自己資金として評価されやすい。逆に出所を説明できない現金は、額の大小にかかわらずマイナスに働く。《短期間で見かけの金額を作るより、出所の説明できる資金を正直に示す方が結果的に有利だ。
》
タンス預金が評価されにくい理由
手元に現金で保管していた「タンス預金」は、通帳に入出金の記録が残らないため、出所や貯めてきた経緯を証明しにくい。金額そのものより「計画的に準備してきた裏付け」があるかが見られるため、口座を通さない現金は自己資金として評価されにくい。準備できるなら早い段階で口座に移し、入金の経緯や原資を説明できる状態にしておくことが望ましい。
SECTION 03
自己資金とみなされる範囲を正しく把握する
自己資金が「預貯金だけ」と思い込んで諦める必要はない。返済義務がなく出所を説明できる資金であれば、預貯金以外も自己資金として扱える余地がある。代表例が前職の退職金で、退職証明書や退職金の支給明細などで受領を裏付けられれば自己資金として評価されやすい。
親族からの贈与も、返済義務がない(=借入ではない)ことが前提で、贈与の事実を振込記録や贈与に関する書類で示せれば対象になりうる。一方で「親族からの借入」は返済義務があるため自己資金には含まれない点に注意。いずれの場合も資金の流れを口座で透明にし、出所を書類で説明できる状態を作ることが共通の条件になる。
自己資金として扱える資金・扱えない資金の整理
| 資金の種類 | 自己資金の扱い | 必要になりやすい裏付け |
|---|---|---|
| 給与から積み立てた預貯金 | 評価されやすい | 通帳の入出金履歴 |
| 前職の退職金 | 評価されうる | 退職証明書・退職金支給明細 |
| 返済義務のない贈与 | 評価されうる | 振込記録・贈与に関する書類 |
| 親族からの借入(返済義務あり) | 自己資金には含まれない | (自己資金ではなく負債) |
| 出所不明の現金・タンス預金 | 評価されにくい | 出所の説明が困難 |
SECTION 04
自己資金が乏しいときは事業計画書と外部証明で補う
自己資金が少ない状況をカバーする現実的な打ち手は二つある。一つは事業計画書の作り込みだ。自己資金が薄いほど「返済できる根拠」を計画書で示す重みが増す。
誰に何をいくらで売り、どれだけの粗利で月々いくら返済できるのかを、希望的観測ではなく根拠ある数字で組み立てる。前職の経験・取引先の見込み・初期の受注予定など、収益の確度を裏付ける材料があれば積極的に盛り込む。
もう一つが特定創業支援等事業の活用だ。これは産業競争力強化法に基づき市区町村が行う創業支援で、所定のセミナー等を受けて証明書の交付を受けると、公庫の創業向け融資で貸付利率の引下げ対象になったり、無担保・第三者保証人なしの創業関連保証を事業開始の前倒しで利用できるなどの優遇がある。《自己資金の薄さを「計画の質」と「公的な後ろ盾」で補う発想が有効だ。
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SOURCES
この記事で参照した根拠
- 01
現行の創業向け制度
- 02
自己資金要件の記載
- 03
融資限度額
- 04
特定創業支援等事業の効果
数値・制度は変更される場合があります。確認方法と訂正方針は 運営・編集方針をご覧ください。
FAQ
よくある質問
Q自己資金がまったくない状態でも創業融資を申込めますか?▼
制度上は申込み可能。新規開業・スタートアップ支援資金の公式な利用要件には自己資金の最低額が記載されていないため、自己資金が少なくても申込み自体はできる。ただし実務上は自己資金がゼロだと審査で不利になりやすく、申込めることと通りやすいことは別と考えるべき。
Q見せ金はなぜバレるのですか?▼
公庫は申込時に通帳の入出金履歴を確認するため。申込み直前に突然まとまった金額が入金されていると、計画的に貯めた資金ではなく一時的に借りて見せかけた資金だと疑われる。見せ金と判断されれば審査に大きく不利になるため、出所を説明できない資金を急いで用意するのは逆効果。
Q退職金は自己資金として認められますか?▼
返済義務がなく受領を裏付けられれば自己資金として評価されうる。前職を退職して起業する場合、退職証明書や退職金の支給明細など受領を示す書類を用意しておくとよい。口座に入金して資金の流れを明確にしておくことが望ましい。
Q親や親族からもらったお金は自己資金になりますか?▼
返済義務のない「贈与」であれば自己資金として扱える余地がある。その場合は振込記録や贈与に関する書類で出所を示すことが重要。一方、返済義務のある「借入」は自己資金には含まれず負債として扱われるため、贈与なのか借入なのかを明確にしておく必要がある。
Q特定創業支援等事業の証明を受けると自己資金面で有利になりますか?▼
産業競争力強化法に基づく市区町村の特定創業支援等事業を受けて証明書を取得すると、公庫の創業向け融資で貸付利率の引下げ対象になったり、無担保・第三者保証人なしの創業関連保証を事業開始の前倒しで利用できる優遇がある。自己資金が薄い場合の補強策として検討する価値がある。詳細は事業を行う市区町村の窓口で確認する。
Q自己資金が少ない場合、事業計画書では何を重視すべきですか?▼
「返済できる根拠」を数字で具体的に示すこと。自己資金が薄いほど計画書の説得力が合否を左右する。誰に何をいくらで売り、月々いくらの利益が出てどれだけ返済に充てられるのかを、希望的観測ではなく前職の実績や受注見込みなど確度の高い材料で裏付けることが重要。
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