賃上げ促進税制の令和8年度改正:中小企業はどう変わる
公開: 2026-06-06
令和8年度改正で大きく変わるのは「教育訓練費の上乗せ10%」の廃止で、中小企業の最大控除率は45%から35%に下がる。一方で基本の控除率(1.5%以上で15%、2.5%以上で30%)とくるみん等の5%上乗せ、5年間の繰越控除は維持される。中小企業向け制度そのものは継続する。
この記事のポイント
基本の税額控除率
前年度比1.5%以上の賃上げで15%、2.5%以上で30%
出典: 中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制」(chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai.html)
令和8年度改正の最大の変更点
教育訓練費による上乗せ10%が廃止され、最大控除率が45%から35%へ
出典: 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月与党公表)/中小企業庁
くるみん・えるぼし上乗せ
改正後も継続(控除率に5%上乗せ)
出典: 中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制」
繰越控除
控除しきれなかった額を5年間繰越可能(改正後も維持)
出典: 中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制」
大企業・中堅企業の扱い
大企業(全企業)向けは令和8年3月末で廃止、中堅企業向けは要件強化のうえ令和9年3月末で終了
出典: 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日与党公表)
令和8年度改正で中小企業の何が変わるのか
令和8年度(2026年度)税制改正における賃上げ促進税制の最大のポイントは、中小企業向け制度は存続する一方で「教育訓練費の上乗せ措置」が廃止されることだ。従来は教育訓練費を一定以上増やすと控除率に10%を上乗せでき、すべての上乗せを満たせば最大45%の税額控除が受けられた。改正後はこの教育訓練費上乗せ(10%)がなくなるため、中小企業が狙える最大控除率は35%に下がる。基本の控除率や子育て・女性活躍の上乗せはそのまま残るため、影響は「最大枠の縮小」に絞られる。
基本の控除率(15%・30%)は維持される
中小企業の基本部分は改正前後で変わらない。全雇用者の給与等支給額を前年度比で1.5%以上増やせば増加額の15%、2.5%以上増やせば増加額の30%を法人税額から控除できる。この2段階の控除率は令和8年度改正でも据え置かれており、賃上げに取り組む中小企業の中心的なメリットは引き続き使える。教育訓練費の管理に手が回らない企業でも、給与総額の増加だけで15%または30%の控除を受けられる構造は変わらない点をまず押さえておきたい。
くるみん・えるぼしの5%上乗せと5年繰越は残る
子育て支援や女性活躍を示すくるみん認定・えるぼし認定(一定段階以上)を受けている場合の5%上乗せは、令和8年度改正後も継続する。また、賃上げを実施したものの当期の法人税額が小さく控除しきれなかった分を最大5年間繰り越せる繰越控除も維持される。赤字や利益が薄い年に賃上げをしても、黒字化した年に控除を取り戻せる仕組みは残るため、設備投資や採用で一時的に利益が圧縮される局面でも制度を活用できる。
企業規模ごとに「いつまで使えるか」が分かれる
令和8年度改正では、賃上げ促進税制を企業規模で分離し、廃止・終了の時期に差をつけた点も重要だ。大企業(全企業)向けの措置は適用期限を前倒しして令和8年3月末で廃止される。中堅企業向けは賃上げ要件を強化したうえで令和9年3月末の期限到来をもって終了する方向とされ、より高い賃上げを促す設計に変わる。これに対し中小企業向けは制度自体が継続するため、自社がどの区分に当たるかで「いつまで・どの条件で使えるか」がまったく異なる。まず自社の規模区分を確認することが出発点になる。
中堅企業向けは賃上げ要件が厳しくなる
中堅企業向けの措置は、原則の控除率を適用するための継続雇用者の給与増加要件が引き上げられる方向で見直される。従来より高い賃上げ率を満たさないと原則の控除率が使えなくなるため、中堅企業はこれまでと同じ賃上げ幅では従来どおりの控除を受けられない可能性がある。具体的な要件の数値や適用関係は年度ごとに変わりうるため、改正内容は中小企業庁の最新資料や税務署・顧問税理士で必ず確認してほしい。
自社が「中小企業」に当たるかを先に確認する
賃上げ促進税制では資本金や従業員数などで企業区分が決まり、その区分によって受けられる控除率・上乗せ・適用期限が変わる。グループ会社の資本関係や直近の増資で区分が変わることもあるため、「中小企業向けだから35%まで使える」と決めつける前に、自社が税法上どの区分に該当するかを確認しておくことが欠かせない。区分の判定は決算期や出資構成に左右されるため、判断に迷う場合は顧問税理士に確認するのが安全だ。
改正を踏まえて今すべき準備
令和8年度改正で中小企業が押さえるべきは「教育訓練費上乗せをあてにした節税設計を見直すこと」と「基本の賃上げ要件と繰越控除を最大限使うこと」の2点だ。教育訓練費を増やして45%まで取りに行く前提で計画していた場合は、改正後は最大35%になるため税効果の見積もりを引き直す必要がある。一方、賃上げによる資金繰りの一時的な負担は運転資金の融資で平準化できるため、税制メリットと資金調達をセットで設計すると無理なく賃上げを継続しやすい。
節税額の試算を改正後の控除率で引き直す
教育訓練費の上乗せ廃止で最大控除率が35%に下がるため、これまで45%前提で見積もっていた税額控除は過大になっている可能性がある。賃上げ計画を立てる際は、改正後の控除率(基本15%・30%+くるみん等5%)で節税額を計算し直し、教育訓練費を無理に増やすコストと得られる控除のバランスを再評価したい。控除額は給与増加額や自社の法人税額に左右されるため、具体的な金額は決算数値をもとに税理士と試算するのが確実だ。
賃上げの資金負担は融資で平準化する
賃上げは人件費の固定的な増加を伴うため、税額控除を受けられても支出のタイミングと控除のタイミングがずれて資金繰りを圧迫することがある。給与の増加分や採用にかかる費用は運転資金の融資でならし、税制メリットは決算で回収するという順序で設計すると、資金面の不安なく賃上げを進めやすい。自社の規模や業歴に合った融資先を選ぶことで、賃上げと資金繰りの両立がしやすくなる。
よくある質問
Q令和8年度改正で中小企業の賃上げ促進税制はなくなりますか?▼
いいえ、中小企業向けの制度は継続します。なくなるのは教育訓練費による上乗せ10%で、これにより狙える最大控除率は45%から35%に下がりますが、基本の控除や繰越控除は残ります。
Q中小企業の基本の税額控除率は改正後も変わりませんか?▼
変わりません。全雇用者の給与等支給額を前年度比1.5%以上増やせば増加額の15%、2.5%以上で30%を控除できる仕組みは令和8年度改正後も維持されます。
Q教育訓練費の上乗せが廃止されると、どのくらい控除が減りますか?▼
上乗せ分の10%がなくなるため、すべての要件を満たした場合の最大控除率が45%から35%に下がります。基本部分やくるみん等の5%上乗せは残るため、影響は最大枠の縮小に限られます。
Qくるみん認定やえるぼし認定の上乗せは令和8年度改正後も使えますか?▼
使えます。子育て支援・女性活躍を示すくるみん・えるぼし認定(一定段階以上)による5%の上乗せは、改正後も継続するとされています。控除率を底上げできる手段として引き続き有効です。
Q控除しきれなかった分を翌年以降に繰り越せますか?▼
繰り越せます。賃上げを実施した年に法人税額が小さく控除しきれなかった額は、最大5年間繰り越して控除できます。この繰越控除は令和8年度改正後も維持されます。
Q大企業や中堅企業はいつまで使えますか?▼
大企業(全企業)向けは令和8年3月末で廃止、中堅企業向けは要件を強化したうえで令和9年3月末の期限到来をもって終了する方向です。自社がどの区分かで使える期間が変わります。
Q改正内容の正確な数値はどこで確認できますか?▼
中小企業庁の賃上げ促進税制のページや令和8年度税制改正大綱が一次情報です。要件や数値は年度ごとに変わりうるため、適用前に最新資料や顧問税理士で必ず確認してください。
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