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銀行内部格付けを1段階上げる:3〜6ヶ月の実務手順

公開: 2026-05-22

銀行内部格付けの仕組みを理解しても、実際に区分を1段階上げるには3〜6ヶ月単位の段取りが必要だ。月次の試算表整備、決算3ヶ月前からの数値調整、経営改善計画書の銀行提出、405事業による外部専門家活用を時系列で組み合わせる実務手順を、現状診断から銀行への提示まで具体化する。

ポイント

この記事のポイント

経営改善計画の進捗評価基準(区分維持の条件)

売上高および当期利益が計画値に対して概ね8割以上確保されていれば「概ね計画どおり」と評価され、区分維持・引き上げが認められる

出典: 金融庁 旧金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」および各金融機関の自己査定実務運用(マニュアル廃止後もディスカッションペーパーで実務継続を明示)

中小企業の区分引き上げに必要な計画期間

計画期間が概ね5年以内(5〜10年で概ね計画どおり進捗している場合を含む)で、計画終了後に正常先となる経営改善計画が策定されていること

出典: 金融庁 旧金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」(マニュアル廃止後もディスカッションペーパーで実務継続を明示)

405事業(経営改善計画策定支援事業)の補助内容

認定支援機関への支払費用の3分の2を補助、上限300万円(計画策定費用・伴走支援費用)。経営者保証解除関連は別途上限10万円。窓口は全国47都道府県の中小企業活性化協議会

出典: 中小企業基盤整備機構(smrj.go.jp/sme/succession/improvement-plans.html)・中小企業庁「経営改善計画策定支援」

定量評価で重視される2指標の目標水準

自己資本比率は20%以上(30%超で優良)、債務償還年数は10年以内(7年以内で交渉優位、5年以内で優良判定)

出典: 当サイト調査(複数の銀行格付け実務解説および税理士法人の融資分析記事を集約)

第1段階(着手〜1ヶ月):現状診断と銀行視点での自己査定

区分引き上げを狙うなら、最初の1ヶ月で「銀行から自社がどう見えているか」を逆算する作業が必要だ。直近3期分の決算書を並べ、自己資本比率(純資産÷総資産)と債務償還年数(有利子負債÷(経常利益+減価償却費))の推移をまず計算する。自己資本比率10%未満・債務償還年数10年超なら要注意先水準、自己資本比率20%以上・債務償還年数7年以内なら正常先の中位以上が見える水準だ。次に「実質財務」への補正項目を洗い出す。役員借入金は表面上は他人資本だが、返済劣後特約や金融機関の確認文書を整えれば「資本性借入金」として実質的な自己資本扱いに振り替えられる余地がある。不良在庫・回収不能売掛金・遊休不動産は実質純資産から差し引かれる項目で、簿価のまま放置していると表面財務より厳しく評価される。代表者個人の資産背景も中小企業特性勘案として加味される枠組みがあり、これらを棚卸しすることで「銀行が見ている実質的な自社の姿」が初めて掴める。

銀行に直接聞ける質問と聞けない質問

債務者区分そのものを開示する義務は銀行にない。ただし担当者に「当行から見て当社の財務上の課題と改善余地はどこにありますか」と聞けば、改善ポイントの語られ方から区分の方向性が間接的に読める。「自己資本比率がもう少し欲しい」と言われれば現在の格付けは中位以下、「順調に推移している」なら上位ということだ。決算説明の場で前向きに聞くと回答が得られやすい。

第2段階(2〜3ヶ月):決算前の合法的な数値調整と実質財務改善

決算月の3ヶ月前から動かせる打ち手は限られているが、効果は大きい。第一に役員借入金の整理だ。代表者が会社に貸し付けた資金を①資本金へ振り替える(DES:デット・エクイティ・スワップ)②返済劣後特約付きの覚書を交わし「資本性借入金」として銀行に届け出る、のいずれかで自己資本比率が直接改善する。司法書士・税理士と必ず連携して進める。第二に不良資産の処理。簿価の高い在庫・回収不能の売掛金・実際に使っていない遊休不動産や旧設備を売却・除却することで、総資産が圧縮され自己資本比率の分母が小さくなり比率が改善する。第三に役員報酬の調整。次期以降の話だが、業界水準・売上規模に見合わない高額役員報酬は「法人の収益力が低い」と評価されるため、適正水準に戻すことで実効利益が改善する。これらは全て「合法的な数値の整え方」であり、粉飾ではなく実態の見える化に近い性質を持つ。

決算前3ヶ月で動かせる主な改善アクション

アクション影響する指標実行時期の目安
役員借入金の資本組入(DES)自己資本比率(分子増)決算月の2〜3ヶ月前に司法書士相談
返済劣後特約付き覚書で資本性借入金化自己資本比率(実質判断)決算月の1〜2ヶ月前に銀行と協議
不良在庫・回収不能売掛金の処理実質純資産(資産の質向上)決算月の3ヶ月前から着手
遊休不動産・旧設備の売却・除却自己資本比率(分母減)決算月の3〜6ヶ月前に売却交渉開始
役員報酬の適正化経常利益・利益率事業年度開始3ヶ月以内に決定(途中変更不可)
不要な保有株式・ゴルフ会員権の処分実質純資産・固定資産圧縮決算月の2〜3ヶ月前

第3段階(4〜6ヶ月):経営改善計画書の作成と銀行への正式提示

区分引き上げを銀行に正式に認めさせるには、口頭交渉ではなく文書化された経営改善計画書が必要になる。金融庁の運用基準では、計画進捗が「売上高および当期利益が事業計画に比して概ね8割以上確保されている」状態であれば「概ね計画どおり」と評価され、区分維持・引き上げが認められる。中小企業の場合、計画期間が概ね5年以内(5〜10年で概ね計画どおり進捗している場合を含む)で、計画終了後に正常先となる経営改善計画が策定されていれば、要注意先・破綻懸念先からのランクアップが認められる枠組みになっている。計画書には①売上・利益・キャッシュフローの5年計画②自己資本比率・債務償還年数の年次目標③具体的な改善アクションと責任者・期日④モニタリング体制(月次試算表の提出頻度)を最低限盛り込む。自社のみで作成が難しい場合は中小企業活性化協議会の405事業を活用すれば、認定支援機関への支払費用の3分の2(上限300万円)が補助される。

405事業の活用フローと適用範囲

405事業(経営改善計画策定支援事業)は、金融支援を伴う本格的な経営改善が必要な中小企業向けの公的支援で、補助上限は300万円・補助率3分の2、伴走支援費用も対象になる。手続きは①最寄りの中小企業活性化協議会(全国47都道府県)に相談②認定経営革新等支援機関(税理士・公認会計士・中小企業診断士等)を選定③利用申請書を協議会に提出④計画策定後、金融機関との合意形成と協議会への申請完了、という流れで進む。経営者保証解除に関する金融機関交渉費用は別枠で上限10万円が補助対象(弁護士に限定)。「自分で計画書を書くと銀行に通用するか不安」という段階で外部専門家を費用補助付きで活用できる仕組みであり、特に要注意先以下の区分の企業にとっては第一選択肢になる。

月次試算表の定期提出という地味な打ち手

経営改善計画書を提出しても、提出後の進捗報告が止まれば「計画通り推移しているか」を銀行が判断できず、結局は決算時の機械判定に戻る。主取引銀行に対して月次(融資残高が大きい場合は月次必須、最低限四半期)の試算表を継続提出することで、定性評価が積み上がり、区分の引き上げ・維持の交渉力が高まる。前期赤字でも当期黒字化の過程を試算表で示せると追加融資に応じてもらえることがあり、「改善トレンドの見える化」が定性スコアに直結する。決算後は決算書を2週間以内に提出し、業績説明・今期計画を口頭でも補足するのが基本動作だ。

区分別の現実的なゴール設定:要注意先→正常先と正常先内の上位移動

同じ「1段階アップ」でも、出発点によって6ヶ月で到達可能なゴールは異なる。要注意先(その他要注意先)から正常先への復帰は、単年度の改善だけでは足りず、2〜3期連続の黒字と債務超過解消が必要になるのが原則だ。ただし経営改善計画書を提出し計画通りに推移していれば、計画期間中は区分維持・引き上げが認められるケースがあるため、6ヶ月単位で見れば「計画書提出による区分の維持・引き上げ判定の獲得」が現実的なゴールになる。一方、すでに正常先の中位以下にいる企業が上位に移動するのは難度が下がり、自己資本比率を20%から25%へ、債務償還年数を10年から7年へ改善できれば、金利交渉・融資枠拡大・プロパー融資への切替えなど条件改善の効果が即座に表れる。要管理先・破綻懸念先からの脱却は6ヶ月では困難で、中小企業活性化協議会の本格的な再生支援や中小企業の事業再生等に関するガイドラインの活用など、より長期の枠組みに切り替える必要がある。

FAQ

よくある質問

Q3〜6ヶ月で本当に債務者区分は上がりますか?
A

正常先内の上位移動なら6ヶ月で十分達成可能だ。要注意先から正常先への復帰は単年度の改善だけでは原則認められず、2〜3期連続の黒字と債務超過解消が必要になるが、6ヶ月以内に経営改善計画書を作成・提出し計画通り推移していることを示せば、計画期間中は区分維持・引き上げ判定が認められるケースがある。出発点と打ち手次第で到達可能なゴールが変わる。

Q経営改善計画書は自社で作っても銀行に通用しますか?
A

通用するケースもあるが、要注意先以下の区分にいる場合は外部専門家による作成が信頼性を高める。中小企業活性化協議会の405事業を使えば認定支援機関への支払費用の3分の2(上限300万円)が補助される。税理士・公認会計士・中小企業診断士が認定支援機関に該当し、自社負担を抑えながら銀行に通用する計画書を作成できる仕組みだ。

Q計画書の進捗が8割を切ったらどうなりますか?
A

金融庁の運用基準では「売上高および当期利益が事業計画に比して概ね8割以上」が「概ね計画どおり」の判定基準になる。これを下回ると計画見直しの対象となり、区分維持・引き上げの根拠が失われる。下振れが見えた段階で銀行に早めに相談し、計画の前提条件変更や対策を加えた修正版を再提出することが重要だ。隠して決算を迎えるのが最悪のパターンになる。

Q役員借入金を資本性借入金として認めてもらうには何が必要ですか?
A

銀行に認めてもらうには①返済劣後特約付きの覚書(他の借入金より返済順位を後にする条項)②金融機関への正式な届出と確認文書③税理士による会計処理の整理、の3点が最低限必要になる。DES(資本金への振替)まで踏み切れば確実だが、登記費用や税務上の影響があるため司法書士・税理士と相談して進める。覚書方式の方が手続きは軽い。

Q月次試算表を毎月銀行に出すのは負担が大きいのですが、四半期では駄目ですか?
A

融資残高が小さく業績変動が穏やかなら四半期(3ヶ月)ごとでも問題ない。ただし経営改善計画書を提出して区分引き上げを狙っている段階や、融資残高が大きい場合・業績変動が大きい場合は月次提出が望ましい。月次提出を続けると担当者との情報共有頻度が上がり、定性評価の積み上げにも直結する。会計事務所と連携すれば月次試算表の作成自体は大きな負担にならない。

Q6ヶ月で区分が上がらなかった場合、何を見直すべきですか?
A

まず「定量指標の改善幅が想定より小さかったのか」「計画書の提出・運用が機能しなかったのか」を切り分ける。前者なら役員借入金の資本性扱い・遊休資産の処分・役員報酬調整など実質財務改善の打ち手が漏れていないか再点検する。後者なら計画書の現実性(売上8割確保の蓋然性)や、月次試算表提出の継続性、担当者との情報共有頻度を見直す。それでも改善が見えない場合は中小企業活性化協議会の本格支援に切り替える判断が必要だ。

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