月次試算表の銀行への見せ方:格付けを上げる開示の工夫
公開: 2026-05-21
月次試算表は「決算書の合間を埋める通信簿」であり、提出の有無・スピード・補足資料の質で銀行内部格付けの定性評価が動く。翌月10営業日以内の提出を軸に、資金繰り表・前年同月比・経営者コメントを束ねた1セットを毎月渡すことが標準形になる。
この記事のポイント
月次試算表の作成・提出スピード目安
月末締めから翌月10営業日以内(10日まで)の確定・送付が「タイムリー」な水準
出典: 中小企業活力向上プロジェクト アドバンスプラス「経営に活かす試算表の使い方」(keieiryoku.jp/column/detail/?id=59)
試算表が必須となる申込タイミング
決算日から半年以上経過している場合、決算書に加えて直近試算表の提出が求められやすい
出典: 当サイト調査(日本政策金融公庫を含む主要金融機関の融資審査実務より)
経営改善計画書フォローアップでの開示頻度
残高試算表を当月分について翌々月初に送付し、計画と実績の差異・アクションプラン進捗を併せて報告するのが標準
出典: 中小企業庁/日本政策金融公庫 経営改善計画書策定・モニタリング実務(経営改善計画書策定の手引)
銀行が試算表で確認する主要勘定
現金預金・借入金・資本金・繰越利益剰余金・売上高・仕入・人件費・支払利息
出典: 当サイト調査(銀行融資審査の試算表チェック実務より)
月次試算表を出すこと自体が定性評価を押し上げる理由
銀行担当者にとって最も困るのは「決算書1枚で半年〜1年前の状態しか見えない取引先」だ。決算書は年1回しか確定しないため、申込時点で銀行が把握している自社像は最大1年遅れになる。月次試算表を毎月渡している企業は、担当者の手元に常に直近月までの実態が積み上がる状態になり、稟議書の根拠資料として即引用できる材料が揃う。内部格付けにおける定性評価(経営の透明性・情報開示姿勢)は、月次試算表を継続提出している企業のほうが明確に高く評価される傾向がある。地方銀行・信用金庫は定量70%+定性30%程度のウェイトで評価する場合があり、定性30%のうち「情報開示の質と頻度」は決算書だけ提出する企業との差を作りやすい項目だ。逆に「決算書を持って急に大型融資を申し込む」スタイルは、過去の財務情報しかない状態で稟議を起こさざるを得ず、担当者は防御的にならざるを得ない。月次開示の有無は単独で融資可否を決める要素ではないが、同じ財務水準の企業を分ける「もう一歩」の差を作る要素になる。
銀行に出す月次試算表の作り方:4つの実務ルール
銀行が読みやすい月次試算表には共通の型がある。①翌月10営業日以内に確定させる(遅くとも翌月末まで)②勘定科目は決算書と同じ並び・同じ粒度に揃える(仮勘定や雑勘定の濫用を避ける)③前年同月比・前月比の比較欄を併記する(数字単独では銀行は判断できない)④経営者コメントを1ページ添える(増減の理由・特殊要因・今後の見通し)。特に③と④が決定的に重要で、数字だけ渡されても銀行担当者は「なぜこの売上になったのか」「来月以降どうなるのか」を稟議書に書けない。経営者が口頭で説明したことをそのまま稟議書に転記できる形で文字化して渡すと、担当者の作業負荷が下がり、結果として自社の融資相談が優先的に処理されやすくなる。
銀行が高評価する月次試算表セットの構成要素
| 資料 | 中身 | 銀行が見るポイント |
|---|---|---|
| 月次試算表(BS/PL) | 当月末時点の貸借対照表・損益計算書 | 現預金残・借入金残・売上高・粗利率の月次推移 |
| 前年同月比・前月比表 | 主要勘定の対前年同月・対前月の差額と増減率 | 季節要因を除いた実質的な伸び・落ち込み |
| 資金繰り表(実績+向こう3〜6ヶ月見通し) | 入金・支出・借入・返済の月次予実 | 返済原資が確保できているかの検証 |
| 経営者コメント(A4 1枚) | 売上増減の理由・特殊要因・直近の受注状況・今後の見通し | 数字の背景と経営者の認識 |
| 特記事項メモ(必要時のみ) | 大口取引先の状況変化・税金納付状況・係争の有無 | 潜在的なネガティブ要因の早期把握 |
提出頻度と渡し方:継続性が信頼貯金になる
提出頻度は「毎月」が原則。3ヶ月に1回・半年に1回の提出は「思い出した時だけ出す会社」と映り、定性評価の押し上げ効果が大きく目減りする。渡し方は対面・郵送・メール添付・オンラインバンキング経由のいずれでもよいが、PDF+Excelの両方を添付すると担当者が再分析しやすい。対面で渡せる機会は四半期に1回(決算月・上期末・下期中間など)に絞り、残りの月はメール送付+短いコメント文で十分だ。重要なのは「担当者が異動しても継続する」こと。新担当者への引き継ぎ時に「この会社は毎月試算表を送ってくる」と認識されるためには、最低でも12ヶ月の連続提出実績が必要になる。一度始めたら止めない、止めるなら理由を担当者に説明する、この2点が信頼貯金を維持する基本動作だ。
経営改善計画中の企業はモニタリング様式に従う
経営改善計画書を提出してリスケジュール(条件変更)中の企業は、計画策定時に決められたフォロー様式に従って残高試算表と進捗報告を提出する必要がある。中小企業庁/日本政策金融公庫の経営改善計画書策定の手引では、当月分の残高試算表を翌々月初に金融機関へ送付し、計画と実績の比較分析・アクションプランの進捗状況を併せて報告することが標準的な実務として示されている。この場合の試算表提出は「任意の信頼構築活動」ではなく「リスケ継続の条件」となるため、期限遵守が他のすべての書類より優先される。期限を1度でも落とすと「計画通りに動いていない先」と評価され、追加融資・条件再交渉が一気に難しくなる。
銀行からの追加要求への対応:聞かれる前に答えを用意する
月次試算表を提出すると、銀行担当者から「この売上減少の理由は?」「この仮払金は何ですか?」「在庫が増えていますが回転は大丈夫ですか?」といった追加質問が来る。これらの質問が来ること自体は「銀行が真剣に読んでいる証拠」であり、質問が来なくなったら逆に警戒すべきだ(読まれていないか、関心を失われている)。質問対応の鉄則は①即答できる質問は即答する②調査が必要な質問は「○日までに回答します」と期限を切る③決算上の処理が複雑な事項は税理士と相談したうえで回答する、の3点。「分かりません」「税理士に聞かないと」を繰り返すと経営者の数字把握度に疑問を持たれる。月次試算表の主要勘定(現預金・借入金・売上・粗利・人件費)の前月比・前年同月比は経営者自身が即答できる状態にしておくのが望ましい。
質問を先回りする「想定問答メモ」の活用
提出時に経営者コメントとは別に「想定問答メモ」を添えると、担当者の質問工数が下がり評価が上がる。例えば前月比で売上が15%下がった月であれば「Q:売上減少の理由は?/A:大口取引先A社の発注が翌月にずれ込んだため。翌月実績で前年同月比+8%まで回復見込み」のように、想定質問と回答を3〜5問用意する。担当者は稟議書に「経営者は減少要因を把握しており翌月で回復見込み」と書けるため、稟議起案がスムーズになる。質問の先回りは「経営者が数字を理解している」というシグナルとしても機能し、定性評価の加点要素になる。
月次試算表で出してはいけない3つのパターン
①税理士確認前の暫定値を「未確認」と明示せずに渡す(後で訂正が入ると信頼性が落ちる。暫定であれば「税理士確認前の速報値」と必ず明記する)②売上だけ送って販管費・現預金残・借入金残を省略する(銀行は損益と財務の両面で見るため部分提出は判断材料にならない)③決算書と勘定科目の並び・粒度を変える(比較が困難になり、稟議書に時系列で書けなくなる)。これら3つはいずれも「銀行担当者の手間を増やす」「数字の信頼性を下げる」行為で、月次試算表のメリットを打ち消す。月次試算表は「形を整えて毎月渡す」ことが本質で、内容の精度よりも継続性・一貫性・タイムリーさで評価される面が強い。完璧を目指して提出が遅れるよりも、翌月10営業日以内に出すことを優先する判断が現実的だ。
よくある質問
Q月次試算表はどの銀行にも同じ内容を渡してよいですか?▼
基本的に同じ内容で問題ない。各行に同じセット(試算表・前年同月比・資金繰り表・経営者コメント)を渡すと、銀行間で「あの会社は他行にも開示している」と認識され、与信判断の整合性が取りやすくなる。メイン行とサブ行で開示の濃淡を変えると、後で情報の食い違いが発覚した時に信頼を損なうリスクがある。
Q試算表の確定が遅れて翌月10営業日を超えてしまう場合はどうすればいいですか?▼
まず「速報値」として概算で出し、確定版を後送する方法が現実的だ。何も出さないより速報値でも出すほうが評価される。ただし速報と確定の差が毎回大きいと信頼性が落ちるため、経理体制の見直し(会計ソフトの月次締めルール化・税理士との連携強化)で確定スピード自体を上げていくのが本筋になる。
Q赤字月の試算表は出すのを避けたほうがいいですか?▼
避けてはいけない。赤字月こそ「なぜ赤字になったか・どう挽回するか」を経営者コメントで先に説明する場として活用する。隠していたことが後で発覚するほうが信頼を損なう。月次の赤字は単月要因であれば大きな問題にならず、3ヶ月以上連続して赤字が続く場合に初めて格付け再評価の対象になるのが一般的だ。
Q会計ソフトから出力した月次試算表をそのまま渡してよいですか?▼
可能だが、勘定科目の並びを決算書と揃え、雑勘定や仮勘定が膨らんでいないか経営者自身が一度目を通すことを推奨する。会計ソフト標準フォーマットのままだと「雑費」「雑収入」が大きく見えてしまうケースがあり、銀行担当者から内訳を問われる。提出前に主要勘定の前月比・前年同月比をざっと確認し、異常値があれば経営者コメントで先に説明する習慣をつけたい。
Q税理士に月次試算表を任せきりで経営者が中身を理解していなくても大丈夫ですか?▼
銀行担当者から数字の動きを質問された時に答えられないと、経営者の数字把握度に疑問を持たれ定性評価が下がる。すべての勘定を理解する必要はないが、現預金・借入金・売上・粗利・人件費の主要5項目について前月比・前年同月比の理由を即答できる状態にしておくのが最低ラインだ。月次試算表が出来上がったら税理士から30分程度の口頭説明を受ける時間を月次のルーティンに組み込むと、銀行対応の品質が大きく上がる。
Q銀行に出した月次試算表は他の銀行や保証協会と共有されますか?▼
銀行が他行や保証協会と勝手に共有することはない。ただし信用保証協会付き融資の場合、保証協会が銀行経由で財務情報の提出を求めるケースがあり、その場合は同じ試算表が保証協会にも回ることになる。複数の取引行・保証協会に同じ内容を提示している前提で資料を作っておくと、整合性の問題が起きにくい。
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