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事業性融資推進法の中小企業への影響:2026年5月25日施行で何が変わるか

公開: 2026-05-22

事業性融資推進法は2026年5月25日に施行され、不動産担保・経営者保証に頼らず事業の将来性に着目した融資を後押しする「企業価値担保権」が新設される。対象は会社法上の会社(株式会社・持分会社)に限定され、担保権者は内閣総理大臣の免許を受けた企業価値担保権信託会社経由で設定される。経営者保証の履行請求が原則禁止される点が中小企業実務への最大の影響だ。

ポイント

この記事のポイント

事業性融資推進法の施行日

2026年(令和8年)5月25日施行。法律は2024年(令和6年)6月7日成立・6月14日公布(令和6年法律第52号)

出典: 金融庁「事業性融資の推進等に関する法律等に関する留意事項について(事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン)」(令和7年5月)

企業価値担保権の対象会社

会社法上の会社(株式会社・持分会社)に限定。個人事業主や組合は対象外

出典: 法律事務所ZeLo「【2026年5月施行】企業価値担保権とは?事業性融資推進法による新担保制度の概要と実務ポイント」(zelojapan.com/lawsquare/64784)

担保権者の限定

内閣総理大臣の免許を受けた「企業価値担保権信託会社」に限定される。信託会社の免許を持つ金融機関は受託者兼受益者として自社単独でも設定可能

出典: 日本総研「新たな担保制度として創設される企業価値担保権」(jri.co.jp/page.jsp?id=108172)/金融庁「企業価値担保権に関する信託業務に関する内閣府令」

経営者保証との関係

企業価値担保権が設定されている被担保債権について、経営者が行っている保証の履行請求は原則として禁止(粉飾等の例外を除く)

出典: BUSINESS LAWYERS「令和8年5月施行!事業性融資推進法『企業価値担保権』を解説」(businesslawyers.jp/articles/1506)

担保の対象範囲

債務者の総財産一体(有形資産+無形資産:事業ノウハウ・知的財産・顧客基盤・将来キャッシュフロー等)。一部財産のみの担保化は不可

出典: BUSINESS LAWYERS「令和8年5月施行!事業性融資推進法『企業価値担保権』を解説」/日本総研「新たな担保制度として創設される企業価値担保権」

事業性融資推進法の全体像:2026年5月25日に施行される新制度

事業性融資の推進等に関する法律(令和6年法律第52号、通称「事業性融資推進法」)は2024年6月7日に成立、6月14日公布、施行日は2026年(令和8年)5月25日と定められている。金融庁は施行に先立ち2025年5月に「事業性融資の推進等に関する法律等に関する留意事項について(事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン)」を公表し、続けて2026年4月には「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」案を公表するなど、施行に向けた監督体系の整備が段階的に進められてきた。同法の目的は明確で、不動産担保や経営者保証等に過度に依存せず、事業の実態や将来性に着目した融資を増やすことだ。これを実現する中核制度として新設されるのが「企業価値担保権」で、有形資産だけでなく事業ノウハウ・知的財産・顧客基盤・将来キャッシュフローといった無形資産を含む「総財産一体」を担保の対象とする点が従来の不動産担保・売掛債権担保等と根本的に異なる。地方銀行・信用金庫を中心とする中小企業向け融資実務にも、評価手法・モニタリング体制・経営者保証の取扱いの3面で構造的な変化が生じる見込みだ。

従来型融資と企業価値担保権の構造的な違い

項目従来の銀行融資(不動産担保+経営者保証)企業価値担保権を活用する事業性融資
担保の対象不動産・売掛債権など個別資産債務者の総財産一体(無形資産含む)
経営者保証原則として徴求(経営者保証ガイドラインで例外あり)履行請求が原則禁止(粉飾等の例外を除く)
担保権者貸付を行う銀行が直接担保権者内閣総理大臣の免許を受けた信託会社経由
評価のベース担保物件の処分価値事業の将来キャッシュフロー・成長性
想定される利用場面有形資産を持つ既存企業の追加融資無形資産中心のスタートアップ・事業再生・承継

企業価値担保権の仕組み:信託会社を介する構造と「総財産一体」の意味

企業価値担保権の最大の構造的特徴は、銀行が直接担保権者になるのではなく、内閣総理大臣の免許を受けた「企業価値担保権信託会社」を介して設定される点にある。基本形では債務者企業が委託者となり、信託会社が受託者として担保権を保有し、貸付を行った金融機関が受益者(特定被担保債権者)となる。信託免許を持つ金融機関であれば自社単独で受託者兼受益者となることも可能だが、現時点では信託免許を持つ銀行は限定的で、当面は専門の信託会社経由の運用が中心になると見られる。担保の対象は債務者の「総財産一体」で、一部の財産だけを切り出して担保化することはできない。これにより不動産・機械設備など有形資産に加えて、特許・商標・顧客基盤・契約権・ブランド価値といった無形資産、さらに将来キャッシュフローまでが包括的に担保価値として認識される。一方で貸し手側には制限がなく、銀行のほかベンチャーキャピタル・再生ファンドなど多様な主体が融資を行える設計になっている点も従来の担保制度との大きな違いだ。

実行手続と労働者・取引先の保護

債務不履行が生じた場合、受託者である信託会社が裁判所に実行手続開始を申し立て、選任された管財人が事業譲渡により企業価値を換価する流れになる。労働者の給与等の労働債権や商取引先への債務は「共益債権」として実行手続によらず随時かつ優先的に弁済される設計で、配当時には一般債権者保護のため政令で定められた一定割合が取り置かれた後に特定被担保債権者へ配当される。金融庁は同法の留意事項で「企業価値担保権者等は労働条件等について決定する権限を有するものではなく、企業価値担保権設定の目的も労働条件等に影響を及ぼすことではない」と明示しており、労働者・取引先を一方的に毀損する形での担保実行は制度設計上想定されていない。

中小企業実務への影響:3つの主要シーンで何が変わるか

事業性融資推進法の施行で中小企業の資金調達実務に影響が大きいシーンは①不動産を持たない無形資産型企業の新規融資②経営者保証に依存してきた事業承継③再生フェーズ企業への追加融資、の3つだ。第一に、ソフトウェア・SaaS・コンサルティング・知財ライセンス型ビジネスなど不動産担保を提供しにくい業態では、これまで政策金融公庫の事業性評価融資や信用保証協会付き融資に依存するケースが多かったが、企業価値担保権が定着すれば民間金融機関のプロパー融資のレンジが広がる可能性がある。第二に、事業承継場面で後継者の個人保証が大きな障壁となってきたが、企業価値担保権が設定される融資では経営者保証の履行請求が原則禁止されるため、後継者への保証移転を回避できる選択肢が増える。第三に、事業再生フェーズで「有形資産は乏しいが将来性はある」企業に対する追加融資の制度的な道筋ができ、再生ファンド等と銀行が同一枠組みで関与する設計も可能になる。一方で当面は信託会社経由の手続コスト・モニタリング負荷から、案件は比較的大型・将来キャッシュフロー予測がしやすい企業から先行すると見られ、中小・小規模事業者全般に直ちに普及するわけではない点には注意が必要だ。

銀行側の対応:事業性評価ノウハウとモニタリング体制が前提

企業価値担保権を活用するには、銀行側に従来以上の事業性評価力(目利き)と継続的なモニタリング体制が求められる。担保価値が事業の将来見通しに依存するため、貸出後も事業計画と実績の差異分析・財務制限条項(コベナンツ)の運用・経営支援を継続的に行う必要があり、デロイトトーマツの解説でも「事業分析→将来計画分析→融資条件設定(コベナンツ含む)→期中モニタリング」の4段階対応が実務ステップとして示されている。中小企業側から見れば、企業価値担保権を使う融資を申し込む際には、月次試算表・事業計画進捗・KPIデータを定常的に共有できる体制を整えておくことが事実上の前提条件になる。

従来制度との関係:経営者保証ガイドラインと事業性評価融資はどう変わるか

事業性融資推進法と企業価値担保権は、既存の「経営者保証に関するガイドライン」や「事業性評価融資」の実務を置き換えるものではなく、選択肢を増やす位置付けにある。経営者保証ガイドラインは2014年運用開始以降、法人個人の財務分離・適切な財務情報開示・返済能力の維持の3要件を整えた企業について経営者保証の解除・新規徴求回避を後押ししてきた制度で、企業価値担保権が設定されない通常融資ではこのガイドラインが引き続き主軸となる。事業性評価融資(金融庁が2014年の金融モニタリング基本方針で打ち出した方針)も、財務データや担保保証への過度依存から事業の将来性・キャッシュフロー評価へ重心を移す枠組みとして継続する。企業価値担保権はこれらの延長線上で、より踏み込んだ形(経営者保証の履行請求原則禁止+無形資産含む総財産担保)の融資手段として位置付けられる。中小企業側の実務的なポイントは、自社が①どの制度を組み合わせて資金調達するのが最適か②メインバンクが企業価値担保権の取扱いをどの程度準備しているか、を施行後の動向を見ながら整理することだ。施行直後から全行が対応するわけではなく、信託免許を持つメガバンク・大手地銀から段階的に取扱事例が積み上がる見込みである。

FAQ

よくある質問

Q事業性融資推進法はいつから適用されますか?
A

2026年(令和8年)5月25日に施行される。法律自体は2024年6月7日に成立・6月14日公布されており(令和6年法律第52号)、金融庁は施行に向けて2025年5月に「留意事項ガイドライン」を、2026年4月に「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」案を順次公表し、監督体系の整備を進めてきた。

Q企業価値担保権は個人事業主でも使えますか?
A

使えない。企業価値担保権の設定者は「会社法上の会社」(株式会社および持分会社:合名・合資・合同会社)に限定されており、個人事業主や民法上の組合は対象外。法人化していない事業者が同制度を活用したい場合は、まず法人成りを検討することが前提となる。

Q企業価値担保権が設定されると経営者保証は完全に取られなくなりますか?
A

基本的には経営者保証の履行請求が原則禁止されるが、粉飾決算や財産隠匿等の経営者の悪質な行為がある場合などには例外的に履行請求が認められる設計になっている。「保証契約自体を一切結ばない」のではなく「設定された保証についての履行請求を原則制限する」という建て付けである点に注意が必要だ。

Q担保の対象が「総財産一体」とはどういう意味ですか?
A

不動産・機械設備・在庫・売掛債権など個別資産を切り出して担保にするのではなく、債務者の財産全体(有形資産+事業ノウハウ・知的財産・顧客基盤・契約権・将来キャッシュフロー等の無形資産)を一体として担保化する設計を指す。一部の財産だけを企業価値担保権の対象とすることはできない。

Q銀行は施行日から企業価値担保権の融資を提供できるのですか?
A

制度上は施行日(2026年5月25日)以降に設定が可能になるが、実務的には担保権者となる「企業価値担保権信託会社」の免許取得や、銀行内部の事業性評価・モニタリング体制整備が進んだ金融機関から段階的に取扱いが始まる見込み。施行直後から全国の地銀・信金が一斉に提供を開始するわけではない。

Q中小企業が今のうちに準備しておくべきことはありますか?
A

①月次試算表・資金繰り表・KPIデータを継続的に作成しメインバンクに共有する体制を整える②自社の無形資産(特許・商標・顧客基盤・契約権等)を棚卸しして説明資料を準備する③メインバンクが企業価値担保権の取扱いをどの程度準備しているか面談で確認する、の3点が有効。事業性評価融資の実務とも連続性があるため、現時点の銀行交渉力強化がそのまま施行後の選択肢拡大につながる。

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