赤字決算は損失で終わらない。青色申告法人なら当期の欠損金を10年間繰り越し、将来の黒字と相殺して法人税を軽減できる。赤字を「将来の節税資産」として捉える視点で、繰越控除の仕組み・中小法人と大法人の控除上限の差・青色申告要件・繰戻し還付・赤字決算が融資審査に与える影響を国税庁の公式情報ベースで整理する。
この記事で先に確認すること
- 欠損金の繰越期間
- 平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は10年以内(それより前に開始した事業年度の欠損金は9年)
- 出典: 国税庁 タックスアンサー No.5762「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
- 繰戻し還付の対象
- 欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、前事業年度まで連続して青色申告書を提出している中小企業者等が対象
- 出典: 国税庁 タックスアンサー No.5763「欠損金の繰戻しによる還付」
SECTION 01
欠損金の繰越控除とは:赤字を将来の黒字と相殺する仕組み
欠損金の繰越控除とは、当期の法人の課税所得が赤字(税務上の欠損金)になった場合に、そのマイナス分を翌期以降に繰り越し、将来発生する黒字(所得)と相殺して法人税を軽減できる制度だ。国税庁のタックスアンサー No.5762 によれば、各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度で生じた青色欠損金が、その後の事業年度の所得計算上、損金の額に算入される。繰越期間は平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金で10年、それより前に開始した事業年度の欠損金は9年だ。
たとえば前期に欠損金があり当期に黒字が出た場合、繰り越した欠損金を当期の所得から差し引くことで、当期の課税所得を圧縮できる。赤字は決算上の損失で終わるのではなく、将来の黒字化に備えた「節税資産」として機能する。
重要なのは、この控除を使える前提が「将来の黒字化」であることだ。繰り越した欠損金は黒字(所得)と相殺して初めて税負担の軽減につながるため、赤字を漫然と繰り越すのではなく、黒字転換までの道筋とセットで考える必要がある。
SECTION 02
中小法人と大法人で控除上限が違う:青色申告が要件
この制度の最大のポイントは、会社の規模によって1年間に使える控除の上限が異なることだ。国税庁 No.5762 によれば、中小法人等は繰越控除前の所得金額の全額(100%)まで繰越欠損金を損金算入できる。一方、それ以外の大法人は、平成30年4月1日以後に開始した事業年度では、繰越控除前の所得金額の50%が損金算入の限度となる。
ここでいう中小法人等とは、資本金の額または出資金の額が1億円以下の普通法人等(100%子法人等および大通算法人を除く)を指す。資本金1億円以下の中小企業は黒字が出た年に繰越欠損金を全額ぶつけられるため、繰越控除の恩恵を受けやすい立場にある。
なお、この繰越控除はあくまで青色申告が前提だ。No.5762 は要件として、欠損金が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出していることを挙げている。赤字の年に青色申告で確定申告をしておかないと将来の節税につながらないため、赤字決算であっても期限内の青色申告を欠かさないことが実務上の鍵になる。
当期の赤字を前期に戻す「繰戻し還付」という選択肢
将来の黒字を待つ繰越控除に対し、過去の黒字に遡って税金を取り戻す制度が欠損金の繰戻し還付だ。国税庁 No.5763 によれば、当期に生じた欠損金を前1年以内に開始した事業年度に繰り戻し、その事業年度の法人税額の還付を請求できる仕組みで、主に中小企業者等が対象となる。適用には、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出していること、前事業年度から欠損金の生じた当期まで連続して青色申告書を提出していることなどの要件がある。
前期に法人税を納めた中小企業が当期に赤字となった場合、繰越控除で将来に活かすか、繰戻し還付で今すぐ資金を取り戻すかは資金繰りの状況によって判断が分かれる。どちらが有利かは個社の所得見通しによるため、適用要件や最新の取扱いは必ず国税庁の公式情報や顧問税理士で確認してほしい。
中小法人等と大法人の繰越控除限度額の違い(平成30年4月1日以後開始事業年度)
| 区分 | 控除限度額 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 中小法人等(資本金1億円以下等) | 繰越控除前の所得金額の全額(100%) | 青色申告+その後連続して確定申告書を提出 |
| 大法人(中小法人等以外) | 繰越控除前の所得金額の50% | 青色申告+その後連続して確定申告書を提出 |
SECTION 03
赤字決算が融資審査に与える影響と、繰越欠損金の伝え方
節税面では将来の資産になる欠損金だが、融資審査では赤字決算そのものがマイナスに働く点に注意が必要だ。銀行は決算書の損益と純資産を見て返済能力を評価するため、赤字や繰越欠損金の累積は審査ハードルを上げる要因になる。ただし赤字決算が即融資不可というわけではなく、銀行が重視するのは赤字の中身と回復シナリオだ。
一時的・戦略的な赤字なのか、複数期続く構造的な赤字なのかを切り分け、黒字化の道筋を事業計画書で具体的に示すことが突破口になる。繰越欠損金を伝える際は「将来黒字化したときに法人税が軽減され、その分が返済原資の余力になる」という前向きな文脈で説明できると、決算書のマイナス面だけで判断されにくくなる。
民間銀行が慎重な局面では、日本政策金融公庫の経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)など公的制度も選択肢になる。赤字決算でどう融資を通すかは /guide/red-figure-loan で、二期連続赤字に踏み込んだ実務は /guide/two-year-deficit-loan で詳しく整理している。
SOURCES
この記事で参照した根拠
- 01
欠損金の繰越期間
- 02
中小法人等の控除限度額
- 03
大法人の控除限度額
- 04
中小法人等の定義
- 05
繰戻し還付の対象
数値・制度は変更される場合があります。確認方法と訂正方針は 運営・編集方針をご覧ください。
FAQ
よくある質問
Q欠損金は何年間繰り越せますか?▼
青色申告法人の場合、平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は10年以内に開始する事業年度まで繰り越せる(国税庁 No.5762)。平成30年4月1日より前に開始した事業年度の欠損金の繰越期間は9年だ。繰越期間内に黒字(所得)が出れば、その所得と相殺して法人税を軽減できる。
Q中小法人と大法人で控除できる金額に差はありますか?▼
差がある。国税庁 No.5762 によれば、資本金1億円以下の中小法人等は繰越控除前の所得金額の全額(100%)まで繰越欠損金を控除できるが、それ以外の大法人は平成30年4月1日以後開始事業年度で所得金額の50%が控除の限度となる。資本金1億円以下の中小企業は黒字が出た年に欠損金を全額ぶつけられるため有利だ。
Q繰越控除を受けるために必要な要件は何ですか?▼
国税庁 No.5762 によれば、欠損金が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を提出し、かつその後の各事業年度について連続して確定申告書を提出していることが要件だ。赤字の年に青色申告で確定申告をしておくことが将来の節税につながる前提になるため、赤字決算でも期限内の青色申告を欠かさないことが重要だ。
Q赤字でも繰越控除を使えば必ず税金が安くなりますか?▼
必ずではない。繰越控除は将来の黒字(所得)と相殺して初めて法人税の軽減につながる仕組みのため、黒字化が前提だ。
繰越期間(原則10年)内に黒字が出なければ欠損金は使い切れずに期限切れとなる場合がある。赤字を漫然と繰り越すのではなく、黒字転換の道筋とあわせて活用を考えることが大切だ。
Q繰越控除と繰戻し還付はどう違いますか?▼
繰越控除は当期の欠損金を翌期以降に繰り越して将来の黒字と相殺する制度、繰戻し還付は当期の欠損金を前1年以内の事業年度に繰り戻して納めた法人税の還付を受ける制度だ(国税庁 No.5762・No.5763)。繰戻し還付は主に中小企業者等が対象で、いずれも青色申告などの要件がある。将来に活かすか今すぐ資金を取り戻すかは資金繰りで判断が分かれる。
Q繰越欠損金があると銀行融資は受けにくくなりますか?▼
赤字決算や繰越欠損金の累積は、銀行が返済能力を見るうえで審査ハードルを上げる要因になりやすい。ただし即融資不可ではなく、銀行は赤字の中身と回復シナリオを重視する。
一時的・戦略的な赤字か構造的な赤字かを切り分け、黒字化の道筋を事業計画書で具体的に示すことが鍵だ。民間銀行が慎重な場合は日本政策金融公庫など公的制度も選択肢になる。
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