企業価値担保権の完全ガイド:2026年5月施行の新融資制度
公開: 2026-05-22
企業価値担保権は2026年5月25日施行の事業性融資推進法で新設される制度で、不動産などの有形資産に加えてノウハウ・顧客基盤・知的財産といった無形資産を含む「総財産」を一体として担保にできる。スタートアップ・事業承継・事業再生の3局面での活用が想定される。
この記事のポイント
事業性融資推進法および企業価値担保権の施行日
2026年5月25日
出典: 金融庁「企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について」公式サイト
担保対象財産の範囲
債務者の総財産(無形資産を含む。将来取得財産も含む)
出典: 事業性融資推進法7条1項(金融庁公式資料)
担保権者の要件
内閣総理大臣の免許を受けた企業価値担保権信託会社に限定
出典: 事業性融資推進法32条・33条(金融庁公式資料)
対抗要件
債務者の本店所在地における商業登記
出典: 事業性融資推進法15条(金融庁公式資料)
利用想定の3局面
スタートアップ・事業承継/M&A・事業再生
出典: 金融庁および全国銀行協会「企業価値担保権の活用に向けた報告書」2025年3月
企業価値担保権とは:総財産を一体担保にする新しい仕組み
企業価値担保権は2026年5月25日に施行される「事業性融資の推進等に関する法律(事業性融資推進法)」で新設される担保制度だ。従来の不動産担保や機械設備担保とは異なり、債務者会社の「総財産」を一体として担保の目的とする点が最大の特徴になる。総財産には有形資産(不動産・機械設備・在庫)に加え、ノウハウ・顧客基盤・知的財産・契約関係といった無形資産も含まれる。担保権者は内閣総理大臣の免許を受けた「企業価値担保権信託会社」に限定され、債務者を委託者・信託会社を受託者とする企業価値担保権信託契約に基づいて設定される物権だ。対抗要件は債務者の本店所在地における商業登記によって具備される。
従来担保と企業価値担保権の違い
| 項目 | 従来担保(不動産担保等) | 企業価値担保権 |
|---|---|---|
| 対象財産 | 個別資産(不動産・機械等) | 総財産(無形資産含む) |
| 対象となる主な資産 | 有形資産が中心 | 無形資産(ノウハウ・顧客基盤・知財)も含む |
| 担保権者 | 金融機関が直接保有 | 免許制の企業価値担保権信託会社 |
| 対抗要件 | 不動産登記・動産譲渡登記等 | 債務者本店所在地での商業登記 |
| 実行時の原則 | 個別資産の換価・配当 | 事業を解体せず雇用維持しつつ承継 |
| 施行時期 | 従来から運用 | 2026年5月25日施行 |
担保対象財産と通常の事業活動の範囲:日常運営はどう変わるか
企業価値担保権の対象は「総財産」だが、債務者は「通常の事業活動の範囲内」であれば担保財産を自由に使用・収益・処分できる(事業性融資推進法20条1項)。日々の在庫販売・原材料仕入・人件費支払・通常の機械更新などは従来通り経営判断で実行できる。一方で「重要な財産の処分」「事業の全部または重要な一部の譲渡」については企業価値担保権者の事前同意が必須になる(同法20条2項)。これは事業価値そのものを担保にしている以上、その源泉となる中核資産や事業ラインを担保権者の同意なく切り出されると担保価値が毀損するためだ。実務上は重要な財産処分の閾値・対象範囲をコベナンツ(財務制限条項)で個別契約に落とし込み、平時のコミュニケーションを通じて運用される。
利用想定3局面:スタートアップ・事業承継・事業再生での活用
金融庁・全国銀行協会の整理では、企業価値担保権の利用想定は主に3局面とされる。第一にスタートアップ。不動産などの有形資産を持たないが知的財産・ノウハウ・顧客基盤に価値があるベンチャー企業が、事業全体の将来性を評価された融資を受けられるようになる。第二に事業承継・M&A。買収ビークル(SPC)を使ったMBOや事業承継で、買収対象企業の保証債務履行請求権を特定被担保債権として設定する活用が想定される。第三に事業再生。金融機関が平時から事業内容を深く理解する仕組みを通じて、業績悪化時の早期再生支援につなげる狙いがある。いずれも従来の不動産担保・個人保証中心の融資慣行では資金調達が困難だった局面で、新たな選択肢を提供する制度だ。
労働者保護と一般債権者保護の制度設計
企業価値担保権の実行時には「事業を解体せず雇用を維持しつつ承継することが原則」とされ、労働者保護が制度設計に組み込まれている。金融庁ガイドラインは、企業価値担保権者が人員削減や賃金削減について意思決定する権限を持たないこと、労働条件への影響を目的とする担保設定ではないことを明確化している。また配当手続では、特定被担保債権者への配当に先立ち「不特定被担保債権留保額」(政令で定める一定割合)を留保し、一般債権者への弁済原資を確保する仕組みが置かれている(事業性融資推進法166条2項・3項)。これにより担保権者が総財産から無制限に回収することを防ぎ、商取引債権者や労働債権者の保護を図っている。
よくある質問
Q企業価値担保権は中小企業でも利用できますか?▼
利用できる。会社法上の会社(株式会社・持分会社)であれば規模を問わず利用可能だ。特にスタートアップや無形資産が事業価値の中心となる企業での活用が想定されている。詳しくは関連する担保・保証人の基礎知識ガイドも参照。
Q従来の不動産担保や個人保証は不要になりますか?▼
必須ではなくなる。企業価値担保権は総財産を一体担保にするため、不動産担保や経営者保証に頼らない融資が技術的に可能になる。ただし金融機関の運用方針や個別案件のリスクに応じて従来型担保が併用されるケースも想定される。
Q担保権を設定した後、日常的な仕入れや販売は制限されますか?▼
制限されない。事業性融資推進法20条1項により、債務者は通常の事業活動の範囲内であれば担保財産を自由に使用・処分できる。制限がかかるのは重要な財産の処分や事業の全部・重要な一部の譲渡のみで、事前の同意が必要になる。
Q担保権者は誰になりますか?銀行が直接担保権者になるのですか?▼
銀行が直接担保権者になるのではなく、内閣総理大臣の免許を受けた「企業価値担保権信託会社」が受託者として担保権を保有する。融資を行う金融機関は「特定被担保債権者」として配当を受ける関係になる。
Q従業員の雇用や給与は実行時に守られますか?▼
守られる。金融庁ガイドラインは実行時に事業を解体せず雇用を維持しつつ承継することを原則と定めている。また企業価値担保権者は人員削減や賃金削減について意思決定する権限を持たず、労働条件への影響を目的とする担保設定ではないことが明示されている。
Q一般の取引先(仕入先など)の売掛金はどう保護されますか?▼
配当手続で「不特定被担保債権留保額」が政令で定める一定割合分留保され、一般債権者への弁済原資が確保される(法166条2項・3項)。担保権者が総財産から無制限に回収することは制度上できない仕組みになっている。
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