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経営者交代時の融資切替:個人保証の新旧引継ぎと既存借入の見直し

公開: 2026-06-05

経営者交代時の最大の論点は「既存の借入に付いた個人保証を誰が背負うか」だ。経営者保証ガイドラインの特則は前経営者・後継者の双方からの二重徴求を原則禁止とし、前経営者の保証は適切に見直す方向にある。承継のタイミングで既存借入の保証も同時に整理するのが実務の要になる。

ポイント

この記事のポイント

事業承継特則の位置づけ

前経営者・後継者からの二重徴求を原則禁止/後継者保証は慎重・柔軟に判断/前経営者保証は適切に見直し(令和元年12月公表・令和2年4月適用)

出典: 中小企業庁「事業承継に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則が公表されました」(chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/191225jigyoshokei.html)

事業承継特別保証制度の効果

経営者保証を不要にできる保証制度。経営者保証ありの既存借入金の借換も可能(取扱期限:令和7年3月31日)

出典: 神奈川県信用保証協会「事業承継特別保証」(cgc-kanagawa.or.jp/guarantee/business_succession/business_succession_special/)

事業承継特別保証制度の主な要件

資産超過・EBITDA有利子負債倍率10倍以内・法人個人の分離・返済緩和中の借入金がないこと。専門家確認で保証料率を軽減

出典: 神奈川県信用保証協会「事業承継特別保証」(cgc-kanagawa.or.jp/guarantee/business_succession/business_succession_special/)

保証を求める際の説明・記録(2023年4月〜)

金融機関は保証契約の必要性等を個別具体的に説明し結果を記録することが求められる(経営者保証改革プログラム、令和4年12月策定)

出典: 金融庁「『経営者保証改革プログラム』の策定について」(fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-3/20221223-3.html)

経営者交代で既存融資に起きること:名義・保証・債務はどう動くか

経営者が交代しても、法人が借りた融資は法人の債務として残り、社長が代わったこと自体では借入契約は変わらない。問題になるのは、その借入に付いている「個人保証(経営者保証)」を誰が負うかだ。前経営者が保証人のままだと、経営から退いた後も保証責任を負い続けることになり、これが承継の心理的な障害になってきた。逆に、後継者に新たに保証を求めれば、後継者は事業を引き受けると同時に多額の個人保証を背負うことになり、承継の決断を鈍らせる。そこで国は「事業承継時に焦点を当てた経営者保証に関するガイドラインの特則」(経営者保証に関するガイドライン研究会、令和元年12月公表、令和2年4月適用開始)を整備し、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないこと(二重徴求の原則禁止)、後継者との保証契約は事業承継の阻害要因となり得るため慎重・柔軟に判断すること、前経営者との保証契約は適切に見直すことを金融機関に求めている。なお個人事業主から法人への承継(法人成り)や事業譲渡では、借入の名義そのものを移す「債務引受」の手続きが別途必要になり、これは金融機関の同意が前提になる。

承継の形と既存融資・保証の動き方

承継の形既存借入の扱い保証で論点になること
親族内・社内承継(法人)法人の借入はそのまま継続前経営者の保証解除と後継者への保証の要否
第三者へのM&A(株式譲渡)法人の借入はそのまま継続旧オーナーの保証を外し新オーナーの保証をどうするか
個人事業の承継・法人成り債務引受で名義を移す手続きが必要誰が債務者になるか(重畳的か免責的か)

前経営者の保証を外す:二重徴求の原則禁止と「第三者」化

経営から退いた前経営者の保証をいつまでも残すのは、特則の趣旨に反する。特則は、金融機関が前経営者・後継者の双方から二重に保証を求めることを原則禁止としており、相続確定までの一時的な状態、前経営者への多額の貸付金が残っている場合、金融支援を実施している中での特段の事情、当事者双方からの自発的な申し出といった限定的な例外を除いて、二重徴求は認められない。さらに、経営権・支配権を失った前経営者は「第三者」に該当し得るため、令和2年4月施行の改正民法による第三者保証の制限も働く。つまり、退任した前経営者の保証は安易に継続せず、見直す方向が原則だ。実務上は、承継のタイミングで金融機関に対し前経営者の保証解除を正式に申し入れ、後継者側がガイドラインの3要件(法人と個人の資産・経理の分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示)をどの程度満たすかを資料で示すのが基本動作になる。

後継者への保証は「当然に付く」ものではない

後継者の保証についても、特則は事業承継の阻害要因となり得ることから、必要な情報開示を得たうえで慎重に判断すべきとしている。金融機関には、経営が悪化したときだけ保証の効力が生じる停止条件付保証契約や、経営改善が進めば保証が解除される解除条件付保証契約といった代替手段の検討も求められている。「社長が代わったから後継者が無条件で保証する」のではなく、自社がガイドライン3要件をどこまで満たすかを起点に、保証なし・条件付き・期間限定など複数の選択肢を金融機関と協議する余地がある。なお令和4年12月に金融庁・経済産業省・財務省が策定した経営者保証改革プログラムにより、2023年4月以降、金融機関が保証を求める際には「なぜ保証が必要か」「どう改善すれば解除の可能性が高まるか」を個別具体的に説明し記録することが求められている。説明を受ける側として、この説明を引き出すこと自体が保証見直しの第一歩になる。

既存借入の切替手段:債務引受と「事業承継特別保証制度」による借換

保証の扱いと並んで実務で詰まるのが、既存借入そのものの切替だ。個人事業の承継や法人成りでは、借入の名義を引き継ぐ「債務引受」が必要になり、方法は2つある。重畳的(併存的)債務引受は、前の債務者と新しい債務者がともに債務者として残る方法で、免責的債務引受は、新しい債務者が単独で引き受け前の債務者が責任を外れる方法だ。どちらも金融機関の同意が前提で、後継者の責任の重さや前経営者の解放度が変わるため、承継前に金融機関と方法を握っておく必要がある。さらに、すでに経営者保証が付いている既存借入を「保証なし」に切り替える具体策として、信用保証協会の事業承継特別保証制度がある。これは経営者保証を不要とできる保証制度で、経営者保証ありの既存借入金を借り換えて経営者保証を外すことが可能とされている。利用には資産超過であること、EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること、法人と個人の分離がなされていること、返済緩和している借入金がないことといった財務要件があり、専門家の確認を受けた場合は保証料率が軽減される。前経営者の保証解除(特則による交渉)とこの制度による借換は、目的は同じ「保証を外す」でも入口が違うため、両にらみで進めるのが効率的だ。既存融資全体の借換・条件見直しの考え方は /guide/refinancing-guide も参照されたい。

経営者保証を外す2つの入口

手段対象主なポイント
ガイドライン特則での交渉前経営者の保証・後継者の保証要否二重徴求禁止と3要件の充足度が鍵
事業承継特別保証制度での借換既存の保証付き借入財務要件を満たせば保証なしに借換可能
FAQ

よくある質問

Q社長が交代すると、会社の既存の借入はどうなりますか?
A

法人の借入は法人の債務なので、社長が代わっても契約自体は継続します。論点になるのは借入に付いた個人保証を誰が負うかで、前経営者の保証解除と後継者への保証の要否を承継のタイミングで金融機関と整理するのが実務の中心です。

Q退任した前経営者の個人保証はそのまま残り続けるのですか?
A

原則は見直す方向です。事業承継特則は前経営者・後継者からの二重徴求を原則禁止とし、経営権を失った前経営者は第三者に該当し得るため安易な保証継続を避けるべきとしています。承継時に保証解除を正式に申し入れるのが基本動作です。

Q後継者は会社を継ぐと必ず個人保証を求められますか?
A

必ずではありません。特則は後継者保証が承継の阻害要因になり得ることから慎重に判断すべきとし、停止条件付・解除条件付などの代替手段の検討も求めています。ガイドライン3要件の充足度を示して保証なしや条件付きを協議できます。

Q個人事業を法人化・承継するとき、借入の名義はどう移しますか?
A

債務引受の手続きで移します。前後の債務者がともに残る重畳的債務引受と、新しい債務者が単独で引き受ける免責的債務引受があり、いずれも金融機関の同意が前提です。後継者の責任の重さが変わるため事前に方法を握っておきます。

Q既存の保証付き借入を「保証なし」に切り替える方法はありますか?
A

信用保証協会の事業承継特別保証制度を使えば、経営者保証ありの既存借入金を借り換えて保証を外せる場合があります。資産超過やEBITDA有利子負債倍率10倍以内などの財務要件を満たす必要があり、専門家の確認で保証料率が軽減されます。

Q保証の見直しはどの金融機関に相談すればよいですか?
A

既存借入のあるメインバンクが起点です。2023年4月以降、金融機関は保証の必要性や解除の可能性を個別具体的に説明する義務を負うため、まず現在の借入条件を金融機関別に整理し、保証解除の見通しを引き出すことから始めます。借換は信用保証協会の活用も検討します。

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