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個人事業主→法人化時の融資戦略:法人成り前後の最適タイミング

公開: 2026-05-21

個人事業主からの法人成り時の融資は、①法人化「前」に個人名義で申込んで実績ベースで通す、②法人化「直後」に新法人で新規借入を起こして個人借入を一括返済する、の2パターンが現実的な選択肢。既存の公庫借入は法人へ自動承継されず、債務引受か新規借換えのどちらかが必要になる。

ポイント

この記事のポイント

新規開業・スタートアップ支援資金の業歴カウント

事業開始後おおむね7年以内(個人事業期間を含めて通算)

出典: 日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金(jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html)

融資限度額

7,200万円(運転資金10年以内・設備資金20年以内・据置5年以内)

出典: 日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金(jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html)

既存借入の法人承継

自動承継されず。免責的債務引受(民法472条)または併存的(重畳的)債務引受(民法470条)で個別契約が必要

出典: 税理士法人入江会計事務所「日本政策金融公庫から借入のある場合の法人成り手続き」

免責的債務引受の社内手続き要件

利益相反取引に該当。取締役会設置会社は取締役会承認、非設置会社は株主総会承認が必須

出典: 税理士法人入江会計事務所「日本政策金融公庫から借入のある場合の法人成り手続き」(民法472条)

預金通帳の審査確認範囲

過去6ヶ月分の入出金履歴で自己資金の積立状況・不審な現金流入の有無を確認

出典: 創業融資ガイド「日本政策金融公庫の審査における預金通帳を解説」

担保・保証人の条件

「希望を伺いながら相談」方式(無担保・無保証人での対応も可能だが保証されているわけではない)

出典: 日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金(jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html)

法人成りの「いつ」融資を組むかで戦略が変わる:3つのタイミング

個人事業からの法人成り時の融資調達は、申込タイミングによって難易度と手続き負担が大きく変わる。実務上の選択肢は①法人化「前」に個人名義で申込み実行後に法人へ債務引受、②法人化「直後」に新法人で新規借入を起こし個人借入を一括返済(実質借換え)、③法人化後しばらく経営してから法人決算実績ベースで申込み、の3パターン。①は個人事業の確定申告書2期分以上で実績審査ができるため通りやすい反面、後から債務引受の社内手続き・金融機関協議が必要になる。②は手続きはシンプルだが新法人として申込むため事業計画書の精度が問われ、個人事業時代の確定申告書も補強資料として提出する。③は法人決算1期以上が前提で時間がかかる。資金需要のタイミングと手続き負担の両面から選択する必要がある。

法人成り融資の3つの申込タイミング比較

タイミングメリットデメリット向いているケース
法人化「前」に個人名義で申込個人事業の実績ベースで審査されるため通りやすい実行後に債務引受の社内手続き・公庫との協議が必要法人化日まで時間に余裕があり、確定申告2期分以上の実績がある
法人化「直後」に新法人で申込債務引受の手続きが不要。法人として一本化できる新法人としての審査になるため事業計画書の精度が問われる個人借入額が比較的少なく、新規借入で一括返済できる規模
法人化後1期以上経過してから申込法人決算書が出せるため通常のプロパー融資ルートに乗る資金需要までに時間がかかる。1期目は赤字決算リスクもある当面の資金繰りに余裕があり、3年目以降の本格融資を狙う

既存の個人事業時代の借入は法人へ自動承継されない:債務引受の2方式

法人成り時に最も注意すべき論点が、個人事業主時代に組んだ借入(特に日本政策金融公庫の融資)は法人化しても自動的に法人へ引き継がれない、という点だ。事業実態は同じでも法的には別人格になるため、債権者である公庫・銀行・信用保証協会との個別契約で「債務引受」の手続きを取らない限り、借入名義は個人のまま残り続ける。債務引受には①免責的債務引受(民法472条:法人のみが新たな債務者になり、個人は債務を免れる)と②併存的(重畳的)債務引受(民法470条:個人と法人が連帯して債務を負う)の2方式がある。免責的債務引受は会社法上「利益相反取引」に該当するため、取締役会設置会社では取締役会承認、非設置会社では株主総会承認が必要で、議事録の作成・保存と金融機関への写し提出が必須になる。手続き煩雑さを避けて新規借入で一括返済する選択肢もあるが、その場合は「資金使途違反」とみなされないよう公庫担当者への事前相談が不可欠だ。

免責的債務引受と併存的債務引受の使い分け

免責的債務引受は個人事業主の債務責任が完全に消える方式で、法人としての一本化が完結する点が最大のメリット。ただし金融機関は個人保証を外すことで担保が薄くなるため、新法人の財務内容・代表者個人保証の付け直しなど条件交渉が必要になる。一方の併存的債務引受は個人と法人が連帯債務者になる方式で、債権者からみた回収可能性が下がらないため金融機関の同意を得やすい反面、個人事業主の責任が残るため法人化のメリット(責任の有限化)が一部相殺される。実務上は債権者である金融機関側が「併存的なら同意するが免責的は認めない」というケースもあるため、まず取引のある公庫支店・銀行担当者へ早期に相談することが鉄則。

新法人での新規借入による「実質借換え」というルート

債務引受の手続き負担を避ける選択肢として、法人成り直後の新法人で公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」等を申込み、個人事業時代の借入を一括返済する実質借換えという方法がある。新規開業・スタートアップ支援資金は「事業開始後おおむね7年以内」が対象で、業歴は個人事業期間を含めて通算カウントされるため、個人事業を5年営んで法人化したケースでは法人成り後2年以内が対象期間になる点に注意が必要だ。借入残高が少なく、新法人の事業計画が堅実で、代表者が新法人の連帯保証人となるケースでは公庫が借換えを認めやすい傾向にある。一方、借入額が多い・新法人の財務見通しが弱い場合は借換え不可となる可能性もあるため、申込前に既存借入残高・希望融資額・資金使途内訳を整理し、公庫担当者と事前協議を行うことが必須になる。

自己資金の扱い:個人事業時代の積立は法人成り後も評価される

法人成り時に公庫融資を申込む場合、自己資金の評価対象には個人事業時代の事業用預金・代表者個人の積立預金が含まれる。審査では預金通帳の過去6ヶ月程度の入出金履歴で「計画的な積立か」「直前にまとめて入金された見せ金ではないか」が確認されるため、法人設立月だけ預金残高が急増しているパターンは要件未達と判断されるリスクが高い。個人事業時代から事業用口座と個人用口座を分けて記帳しておくと、法人成り後の融資審査で「事業で蓄積した自己資金」を立証しやすくなる。なお2024年3月末で旧「新創業融資制度」が廃止された際に「創業資金総額の10分の1以上」という制度上の自己資金要件は撤廃されたが、実務的には希望融資額の3割程度を準備しておくことが推奨される(要件ゼロ=自己資金不要ではない)。さらに法人成り後は代表者から法人への出資(資本金)または役員借入金として自己資金を持ち込む形になり、決算書上の「純資産」の厚みが内部格付け(自己資本比率)にも直結する点を意識する必要がある。

FAQ

よくある質問

Q個人事業主のときに公庫から借りた融資は、法人成りしたら自動的に法人の借金になりますか?
A

自動的には引き継がれない。法的には個人と法人は別人格のため、公庫との個別契約で「債務引受」の手続きを取らない限り借入名義は個人のまま残る。手続きには免責的債務引受(法人のみが新債務者)と併存的債務引受(個人と法人が連帯)の2方式があり、いずれも公庫の同意と社内承認が必要になる。

Q法人化する前と後、どちらのタイミングで融資を申込むのが有利ですか?
A

個人事業の確定申告書が2期分以上揃っているなら、法人化「前」に個人名義で申込んで実績審査を通す方が有利なケースが多い。法人化「直後」に新法人で申込む場合は法人としての事業計画書の精度が問われるが、債務引受の手続き負担を回避できる。資金需要時期と手続き負担の両面で選択することになる。

Q個人事業を5年営んで法人化しました。新規開業・スタートアップ支援資金は使えますか?
A

使える可能性が高い。同制度の対象は「事業開始後おおむね7年以内」で、業歴は個人事業期間を含めて通算カウントされる。個人事業5年+法人2年以内であれば対象期間内に収まる。逆に個人事業を7年超営んでから法人化した場合は同制度の対象外となるため、公庫の一般貸付や信用保証協会付き融資などへの切替えを検討することになる。

Q免責的債務引受と併存的債務引受、どちらを選ぶべきですか?
A

法人として一本化したいなら免責的、金融機関の同意を得やすさを優先するなら併存的が基本。免責的は個人事業主の責任が完全に消える反面、利益相反取引として取締役会または株主総会の承認が必須で、金融機関側の同意ハードルも高い。実務上は金融機関が「併存的なら可」と回答するケースもあるため、まず公庫支店・銀行担当者へ早期相談することが優先される。

Q個人事業時代の借入を法人で新規に借りて一括返済することは可能ですか?
A

可能。これを「実質借換え」と呼ぶ。新法人で「新規開業・スタートアップ支援資金」等を申込み、個人事業時代の借入を返済する形になる。借入残高が少なく代表者が新法人の連帯保証人になるケースでは公庫が認めやすいが、資金使途違反とみなされないよう申込前に公庫担当者へ既存借入残高・希望融資額・使途内訳を提示して事前協議が必須。

Q法人化したばかりで自己資金が乏しいのですが、融資は受けられますか?
A

2024年3月の制度改定で「自己資金1/10以上」という制度上の要件は撤廃されたため、制度上は自己資金が少なくても申込みは可能。ただし審査では預金通帳の過去6ヶ月程度の入出金履歴で計画的な積立状況が確認され、見せ金は見抜かれる。個人事業時代から事業用口座と個人用口座を分けて記帳しておくと、蓄積した自己資金を立証しやすい。実務的には希望融資額の3割程度の準備が目安。