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企業価値担保権の使い方|スタートアップ・事業承継での活用と注意点【2026年5月施行】

公開: 2026-07-04

企業価値担保権は、有形資産に乏しいスタートアップ、経営者保証が壁になる事業承継・M&A、有形資産は乏しいが将来性のある事業再生の3局面で使い分けられる。制度の詳細は基礎ガイドに譲り、本記事は「誰が・どの場面で・どう使うか」と、重要財産の処分に担保権者の事前同意が必要になる等の実務上の注意点に絞って解説する。

ポイント

この記事のポイント

企業価値担保権(事業性融資推進法)の施行日

2026年(令和8年)5月25日

出典: 金融庁「企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について」公式サイト(fsa.go.jp/policy/kigyoukachi-tanpo/index.html)

対象となる会社

会社法上の会社(株式会社・持分会社)に限定。個人事業主や組合は対象外

出典: 法律事務所ZeLo「【2026年5月施行】企業価値担保権とは?事業性融資推進法による新担保制度の概要と実務ポイント」(zelojapan.com/lawsquare/64784)

金融庁が想定する活用局面

スタートアップ・事業承継/M&A・事業再生の3局面

出典: 金融庁「企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について」公式サイト(スタートアップ・事業承継・事業再生など成長を目指す局面で検討と明記)

重要な財産の処分に必要な手続

事業の全部・重要な一部の譲渡や重要財産の処分には企業価値担保権者の事前同意が必要(事業性融資推進法20条2項)

出典: 金融庁「企業価値担保権に関するFAQ」(fsa.go.jp/news/r6/20240830/03.pdf)/事業性融資推進法20条2項

経営者保証との関係

企業価値担保権が設定された被担保債権について経営者保証の履行請求は原則禁止(粉飾等の例外を除く)

出典: BUSINESS LAWYERS「令和8年5月施行!事業性融資推進法『企業価値担保権』を解説」(businesslawyers.jp/articles/1506)

3つの活用シーンの全体像:誰が・どの場面で使うのか

企業価値担保権の制度概要や仕組みは基礎ガイド「企業価値担保権の完全ガイド」に譲るが、実際に「誰が使うのか」で整理すると、金融庁が想定する活用局面は大きく3つに分かれる。第一はスタートアップで、不動産などの有形資産を持たないがノウハウ・知的財産・顧客基盤に価値がある企業が、事業全体の将来性を評価された融資を受ける場面だ。第二は事業承継・M&Aで、買収ビークル(SPC)を用いたMBOや後継者への承継で、経営者保証に頼らず資金を調達する場面。第三は事業再生で、有形資産は乏しいが将来性のある企業への追加融資を、金融機関が平時からのモニタリングとセットで支える場面である。いずれも従来の不動産担保・個人保証中心の融資では届きにくかった領域で、本記事はこの3局面ごとの使い方と実務上の注意点に絞って解説する。

活用シーン別の使いどころ

活用シーン主な利用者従来融資の壁企業価値担保権での使い方
スタートアップ無形資産型ベンチャー有形資産がなく担保を出せない知財・顧客基盤を含む事業全体を担保に将来性評価融資
事業承継・M&AMBO・後継者・買い手経営者保証・後継者保証が壁保証に頼らずSPC等で買収・承継資金を調達
事業再生再生フェーズの企業担保余力が乏しく追加融資が困難平時からのモニタリングとセットで将来性に融資

スタートアップ・事業再生での使い方:無形資産を担保にする

スタートアップでの使い方の核心は、担保に出せる有形資産がなくても、事業そのものの将来価値を担保にできる点にある。SaaS・ディープテック・コンテンツなど、価値の源泉が特許・ソフトウェア・顧客基盤といった無形資産に偏る業態では、これまで金融機関はプロパー融資に踏み込みにくく、増資(エクイティ)か公的融資に依存しがちだった。企業価値担保権を使えば、金融機関が比較的早い段階からメインバンクとして関与し、株式の希薄化を避けながら融資(デット)で資金を調達する選択肢が広がる。事業再生局面でも考え方は同じで、有形資産は費消していても将来キャッシュフローが見込める企業に対し、金融機関が事業内容を深く理解したうえで追加融資や再生資金を出す道筋ができる。実行時には労働債権や商取引債権が共益債権として優先弁済される設計のため、取引先や従業員への影響を抑えつつ事業を継続・承継しやすい。

エクイティ調達との使い分け

スタートアップにとって企業価値担保権は増資(エクイティ)の完全な代替ではなく、併用や使い分けの対象と捉えるのが実務的だ。エクイティは返済不要だが株式の希薄化と経営権の分散を伴う。企業価値担保権を用いた融資(デット)調達は返済義務を負う一方、株式を手放さずに資金を確保できる。売上やユニットエコノミクスが見え始め、将来キャッシュフローを説明できる段階に入ったスタートアップほど、無形資産を含む事業価値を担保にした融資と相性がよい。逆に、売上がまだ立たずキャッシュフロー予測が困難なシード期は、担保価値の評価が難しく当面は対象になりにくい点に注意が必要だ。

事業承継・M&Aでの使い方:経営者保証の壁を外す

事業承継・M&Aでの使い方は、経営者保証と担保の壁を外せる点に大きな意味がある。金融庁のFAQでも、買収ビークル(SPC)を使ったMBOや事業承継のケースで企業価値担保権の利用が想定されると明記されている。典型例は、後継者や経営陣が受け皿会社(SPC)を設立して自社株式を買い取るMBOで、買収対象企業の株式取得資金をSPCが借り入れ、買収後に統合した事業全体の価値を担保にする形だ。従来のMBO・第三者承継では、後継者個人の資産の乏しさや個人保証の負担が調達の障壁になってきたが、企業価値担保権が設定された被担保債権については経営者保証の履行請求が原則として禁止される(粉飾等の例外を除く)。これにより後継者への保証移転を避けやすくなり、承継のハードルが下がる。第三者へのM&Aでも、買収後のキャッシュフローと事業価値を担保に資金を組成する枠組みとして活用が見込まれる。事業承継の融資制度全般については関連ガイド「事業承継・M&A資金調達ガイド」もあわせて参照したい。

実務上の注意点:事前同意・コスト・普及ペース

活用メリットの裏側には、必ず押さえるべき実務上の注意点がある。最大のポイントは経営の自由度で、事業の全部または重要な一部の譲渡、主要な特許権や不動産などの重要な財産の処分には、企業価値担保権者(受託者)の事前同意が必要になる(事業性融資推進法20条2項)。同意を得ずに強行すると取引が無効となったり期限の利益を喪失するリスクがあり、急なM&Aや事業転換の判断で同意プロセスがボトルネックになりうる。第二に、担保権者は内閣総理大臣の免許を受けた企業価値担保権信託会社に限られ、信託を介する手続コストとモニタリング負荷が生じるため、当面は将来キャッシュフローを説明しやすい比較的大型の案件から先行すると見られる。第三に、無形資産や事業性の評価そのものが難しく、金融機関側の目利き力に依存する。中小・小規模事業者全般にすぐ普及するわけではない点を踏まえ、まずはメインバンクに活用可否を相談することが現実的な入口になる。

従来の不動産担保との使い分け

企業価値担保権は万能ではなく、従来の不動産担保・売掛債権担保を置き換えるものではない。金融庁の資料でも、従来の担保による融資がスムーズに行える場合は従来型を利用することも可能であると整理されている。十分な不動産担保があり、経営者保証を外せる目処が立つ企業であれば、コストと手続が軽い従来型融資のほうが合理的なことも多い。企業価値担保権が特に効くのは、有形資産が乏しく事業価値の大半が無形資産にある、あるいは経営者保証を外したい承継・再生局面といった、従来の枠組みでは届きにくいケースだ。自社がどちらに当てはまるかを見極めたうえで、メインバンクと調達手段を比較検討することが望ましい。

FAQ

よくある質問

Q有形資産のないスタートアップでも企業価値担保権で融資を受けられますか?
A

受けられる想定だ。知的財産・顧客基盤・将来キャッシュフローなど無形資産を含む事業全体を担保にできるため、有形資産が乏しくても事業の将来性を評価した融資が可能になる。ただし将来キャッシュフローを説明しにくいシード期は当面対象になりにくい。

QMBOや事業承継ではどのように使うのですか?
A

後継者や経営陣が受け皿会社(SPC)を設立して自社株式を取得するMBOで、買収後の事業全体の価値を担保に取得資金を調達する使い方が想定されている。金融庁のFAQでもSPCを用いたMBO・事業承継での利用が例示されている。

Q企業価値担保権を設定すると経営の自由度は下がりますか?
A

日常の仕入れや販売など通常の事業活動は従来どおり行える。ただし事業の全部・重要な一部の譲渡や重要な財産の処分には担保権者の事前同意が必要で、急なM&Aや事業転換では同意プロセスがボトルネックになりうる点に注意が必要だ。

Q本当に経営者保証は不要になりますか?
A

企業価値担保権が設定された被担保債権については、経営者保証の履行請求が原則として禁止される(粉飾等の例外を除く)。これにより事業承継で後継者へ保証を移転せずに済む可能性が高まるが、個別案件の運用は金融機関の方針にもよる。

Q中小企業でもすぐに使えるようになりますか?
A

制度上は会社法上の会社であれば規模を問わず利用できるが、信託会社を介する手続コストや事業性評価の難しさから、当面は将来性を説明しやすい比較的大型の案件から先行すると見られる。まずはメインバンクに活用可否を相談するのが現実的だ。

Q従来の不動産担保と比べたデメリットは何ですか?
A

信託会社を介するため手続やモニタリングのコストがかかり、重要財産の処分に事前同意が要るなど経営の制約が生じる。十分な不動産担保があり経営者保証も外せる企業なら、従来型融資のほうが合理的な場合もある点に留意したい。

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